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「売り切れですか」

「はい。つい先程、買い手が付いてしまいまして」


 探索者支援協会甲府支部の窓口で『ドラゴンころせるかも』の取り寄せを依頼しようとしたところ、タッチの差で出遅れた。

 あんなイロモノ俺以外に欲しがる奴など居まいと高を括った慢心に足を掬われたか。

 何せ個人製造の一点物。残念だがツキが無かったと諦める他ない。


「重量級の武器をお求めでしたら、先日青森のダンジョンでミノタウロスの大量討伐が報告されています。その分ドロップ品も数多く出回るかと」


 腕輪型端末を開いて確認する。

 北緯四十度以北に位置するダンジョンの二十番台階層で散見されるクリーチャー。ドロップ品は差し渡し三メートル近い戦斧。

 確かに悪くない。しかも取引区分が鋼材扱いで手頃な価格。ハルバード系のエントリーモデルより少し上くらいか。


 だがダンジョン産の武器防具は、基本的にドロップしたクリーチャーが使っていた品と同一の物。

 必然、大半は規格が人間に合っていないため、職人に手直しを頼む必要がある。

 今の所持金じゃあ、どっちみち足が出てしまうことは変わらない。


 第一、改めて考えたら重量級の武器は持ち運びに難がある。

 所持と携帯は許可を得れば法的な問題こそ無いけれど、大振りな得物を抱えて満員電車とか乗るのは流石にアレだ。

 甲府迷宮は家の近くだから今は良くとも、遠征なども考えると無視出来ない話である。


「参るな」


 真っ先に思い浮かぶ解決案は空間圧縮鞄の購入。

 ただでさえ武器だけでも金がかかると言うのに、なんとも頭の痛い。






 細かく調べたところ、俺が扱えるレベルの武器とそれを収められるサイズの圧縮鞄を買い揃えるには、最低百万ばかり必要と判明。


 全然足りねぇ。

 こうなったら、致し方無し。


「稼ぎに出るか……あれこれ金のこと考えながらダンジョンアタックするのは嫌だったんだが」


 これも人生を心行くまで楽しむための試練と思おう。

 つーか、いい装備揃えるために苦労してやりくりするのも、探索者シーカーの醍醐味だよな。





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