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 思いがけず儲かったリゼが飯を奢ってくれるとのことで、二十四時間営業のステーキハウスに足を運んだ。

 ダンジョン帰りのポンドステーキ最高。昔のファンタジー系ラノベとか読んでる時、冒険者が仕事を終えた後の一杯が物凄く美味そうに感じたんだよな。

 まさしく俺も今、あの登場人物達と同じ美酒を味わってるワケだ。

 下戸なもんで酒飲めねーけど。猪口一杯で大惨事だけど。


「カロリーカロリー……次のアタックまでに蓄えとかないと」

「妙な代償抱えたスキル持ちは大変だな」

「スイーツバイキングで贅の限りを尽くしても、ひと振りで帳消し。私にとって『呪胎告知』は『消穢』並みに素敵なスキルよ」


 お気に入りらしい膝丈パーカーに跳ねたソースが、焦げるような音を立てて跡形無く消え失せる。

 曰く『消穢』は『幽体化アストラル』と同じで、衣服にも適用されるらしい。


「服の汚れどころか、ニンニクかじっても口臭ひとつ残らんてのは面白れぇ」

「言ったでしょ。オークションに出る度、争奪戦だって。女性探索者シーカーに人気のスキルランキングで毎年必ず三位以内に入ってるわ」


 納得だよ。

 オシャレの基本は我慢っつう概念を、根本から覆してやがる。






「ところで月彦。今後の予定は決まってるの?」


 食事も済んだ頃合、藪から棒にそんなことを聞かれた。


「明日までに社会福祉概論と食品衛生学のレポート仕上げるつもりだが」

「アンタの単位取得状況はどうでもいいわよ」


 どうでも良くはない。一応ちゃんと大学は卒業するつもりだし。

 中退なぞして探索者シーカーと学生の両立も務められんアジャラカモクレンだと周りに後ろ指を向けられるのは心外極まる。


 ところでアジャラカモクレンて何。響きが間抜けだから多分、悪口だとは思うんだが。

 スマホ壊れたままなんで検索出来ねぇ。


「私、そろそろ狩り場を二十番台階層に移したいの。稼ぎが一桁変わるし」


 ほう。甲府迷宮の場合、十番台階層でも頑張れば一日八万くらいは稼げると聞くが。


「欲しいバッグでもあるのか?」

「バッグなら今日の稼ぎで買えるわ。スキルよスキル」


 物理攻撃無効、穢れ無効、条件は限定的ながら全方位に対応した探知能力、乱発は出来ないものの高威力かつ広範囲の攻撃スキル。

 改めて並べてみると中々レア揃いな豪華ラインナップに、何を加えたいと申すのか。


「老化を止めるスキルが欲しいの」

「あァ成程……億がボーダーラインじゃなかったか? その系統」

「それで一生若さが保てるなら安いもんでしょ」


 これだよ。全く女って生き物は。


 ……ちなみに俺の『双血』はフィジカル及びタフネスを極限以上に強化するための前段階として、肉体年齢が最盛期で固定される。

 つまり不老。強化系のスキルには、ごく稀に付随する効果だそうだ。


「けど単独じゃ流石にキツくて。二十階層のフロアボス討伐も面倒だし」


 加えて甲府迷宮の二十番台階層は日を跨いでの活動が基本。

 クリーチャー蔓延るダンジョンに於いて、ソロでの野営は非常に危険。


「だからそっちが良ければ、空いてる時に二人でアタックかけてみない?」

「つまりド新人の俺を相手に、単独で二十階層を越えられる中堅サマがパーティ組みましょうって誘いか?」

「ええ」


 …………。

 そいつはなんとも、実に唆られる提案じゃねぇかよ。





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