16
長さと太さが電柱ほどもある単眼の大蛇。
そのサイズに似合わぬ敏捷な動きで姿を現したスプレーパイソンは、待ちの姿勢だったリゼ目掛け、霧のような煙のような紫色の靄を吐き出した。
「コイツは牙が無い。代わりに噴霧器官を備えてて、即効性の猛毒を名前の通りスプレーみたく獲物に浴びせるの」
毒。その物騒なフレーズに思わず踏み込みかけた足を宥める。
まともに食らった筈のリゼは、けれど全く動じてすらいなかった。
「──『
便利なスキル持ってやがるな。埃っぽい迷宮エリアや泥濘だらけの樹海エリアを通った割、随分身奇麗だと思ってたんだ。
化粧すら崩れてないことを考えると、汗や老廃物も出る端から消し飛ばされるのか。
「高い買い物だったけど色々重宝してるわ。肌荒れひとつしなくなったし」
「耐性系のスキルには美容の副次効果がある場合も多いとは聞くな。幾らしたんだ」
「オークションで千三百万円。出品される度に争奪戦よ」
美に対する女の執念は恐ろしい。
数度、毒霧を防がれた後、無意味を悟ったらしきスプレーパイソン。
相変わらず攻勢に出る様子の窺えないリゼを力押しで仕留めるべく、太く強靭な胴で締め上げにかかる。
──が、結果は空振り。物の見事すり抜けた。
しかもリゼは微動だにしていないにも拘らず、だ。
「『
「無敵かよ」
「そうでもないわ。
半端に知能があるのか困惑するスプレーパイソンを尻目、悠々と歩き距離を取るリゼ。
そこで漸く、大鎌を振りかぶった。
「ん……?」
小首傾げて眇める。
見間違い、ではなさそうだ。
心臓の如く脈動する大鎌。
拍を打つ度、少しずつ膨れ上がってる。
あれが四つ目のスキルか。
「ふーっ……『
喋るのも億劫なのか、説明は無い。
端末で調べようかと考えた矢先――俺は背筋に伝った悪寒が鳴らす警鐘に従い『豪血』を発動させた身体で駆ける。
「――――ああぁぁぁぁああぁぁっっ!!」
獣じみた咆哮。
最早、禍々しいを通り越した異形の大鎌。横薙ぎに一回転振るわれ、狂った笑い声にも似た風切り音が撒き散らされる。
「っぶね……」
半径数十メートル。軒並み千切れ、焼け焦げ、腐り果てた草薮のお陰で、攻撃の及んだ範囲が分かり易い。
俺は間一髪、半歩外に居た。
……正直、リゼが何したか分からんけど、多分これ『鉄血』で防げなかったわ。
中堅クラス以上は大体こういう必殺技持ってるって話、本当だったのな。
さすがパイセン。マジリスペクト。
でも欲を言えば、やる前に具体的な攻撃圏内くらい教えて頂きたかった。
そりゃ、見せてくれっつったのは俺の方だけども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます