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 甲府迷宮十三階層。

 前回は役所連中の早とちりで遭難者扱いされた挙句、捜索隊が俺を探しに来てしまったため、無駄骨折らせるのも悪いと思い、引き返した地点に到着。


 時計を見ると、アタック開始より四時間前後。

 真っ直ぐ進んだら案外狭いな、このダンジョン。アメリカ最大と名高い『ニューヨーク・ラビリンス』とかは階層ひとつ降りるだけで一日かかるらしいのに。


「……あーあ、ホントに私が何もしないまま着いちゃった。こちとら二年以上かけて最近やっと二十三層だってのに」

「大学通いながらじゃ、実際ダンジョンで過ごした時間自体は精々その二割以下だろ。しかも新人の頃はスロットも空白だらけで単純にフィジカルの差が出やすい。俺の場合、ファーストスキルも相性の良い上物だったしな」

「『双血』ね。ランダム限定のやつでしょ、複数効果付きとか随分珍しいの引いたもんだわ」


 ドロップ品として稀に手に入るスキルペーパー。

 これには大きく分けて、封入された幾つかのスキルの中からひとつを選んで習得するタイプの選択式と、使うまで何を習得するか分からないランダム式との二種類がある。


 一度習得したスキルは消去も上書きも不可能ゆえ、一般的には当然、安定性の高い選択式が好まれる。

 しかし世の常と言うべきか、リスクには相応のリターンが及ぶもの。

 強力なレアスキルは、が多くを占めるのだ。


「運が悪かったら『口笛名人』あたりだったかもね」

「口笛が上手くなるスキルなんぞ誰が欲しがるんだ」


 活用できる場面が全く思い浮かばん。千差万別も大概にしとくべきだろ。

 ただでさえ数少ない二つきりのスロットを片方無駄にするとか願い下げだ。


「……ま、俺が使ったのは戦闘系限定だったし、どんなハズレだろうとダンジョン攻略には役立った筈」

「全身脱力しながら剣を振れば威力の上がる『ふにゃふにゃ剣法』とか?」


 なんだ、その投げやりを体現したネーミング。

 もうちょい名付けに拘れよ、強い弱い以前の問題だぞ。後世で習得する奴の迷惑だろ。






 こんな感じにスキル談義が高じ、ふと情報端末で調べたところ、現在明らかとなっているスキルの約一割が戦闘どころか探索者シーカー活動、延いては日常生活の手助けにすら使えんゴミ判定を受けていると知り、戦慄する俺。

 良かった『双血』で。クセはあれど中々に強いし、名前もエフェクトもイカスし。





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