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甲府支部敷地内の奥、サッカースタジアムほどもある別館。
その中央に坐す、大型トラックが悠々入れるサイズの石門へとシャボン玉の膜を張らせたような外観のゲートを通れば、そこは既にダンジョンの中。
「こんな薄っぺらい膜一枚を、スロット持ち以外は絶対通れない。摩訶不思議だ」
ダンジョン黎明期に於いて、あらゆる手段で破壊なり封鎖なりを試行し、悉くが失敗に終わった代物。
街ひとつ焼き滅ぼすようなミサイルを撃ち込もうと無傷。山ひとつ崩せる巨大重機を動員させようと一ミリも動かせない。
大量のセメントで埋めるなんて計画もあった。しかしゲートの発する未知のエネルギーが、密閉されたことで周囲一帯を吹き飛ばした。
おまけに、ダンジョン内で延々と産まれ続けるクリーチャーを放置すれば、やがて厄介なことが起こる。
様々な事件や協議の果て、ダンジョンと人類との関係は、今の形に落ち着いたのだ。
「細かい理屈とか、どーでもいいわよ」
「同感だな」
現在確認されている数千種のクリーチャーの中でも最弱と目されているゴブリン。
しかし侮るなかれ。彼等だか彼女等だかの身体能力は、成人男性の平均値を優に凌ぐ。
要は普通の人間よりも数段強い。
が、逆に言えば、そのフィジカルは人間の平均値を幾らか上回る程度でしかない。
しかも格好は裸同然。武器だって粗末な剣や槍くらいなもの。
スロット持ちなら、まともな装備と戦闘系のスキルがあれば女でも普通に勝てる。
そして。身体能力が平均の枠になど到底収まらない俺に至っては、武器すら不要。
「お、五匹目発見」
クリーチャーはダンジョン産の素材を用いた武器か、スキルか、スロット持ちの五体以外ではダメージを受けない。
同じように、ダンジョン産の素材を用いた防具か、スキルか、スロット持ちの五体でなければ攻撃を防げない。
分厚い装甲板を備えた重戦車だろうと、ゴブリンに叩かれただけで壊れてしまう。
対クリーチャー用の装備全般が高価な理由のひとつだ。
「くたばれ」
塗り込んだ物品に一時、僅かな攻撃力と防御力を与えるオイルを塗布済みのブーツで、ゴブリンを蹴り殺す。
小瓶一本三千円もするが、これ使わないと蹴ったこっちの靴が壊れるからな。
「せめてコイツ等の持ってる剣だのが使えりゃ幾分マシなんだが」
「強っ……ドロップ品でたまに落とすわよ。性能は木刀並だけど」
何それ要らねぇ。
「だからエントリーモデル揃えなさいって言ったのに。キトラの廉価版ならフルセットでも予算内で収まったわ」
キトラ? ああ、あの剣道着モドキか。
「あんなダサいの御免被る。エリュシオンのハイエンドモデルで及第点ってとこだな」
「ガントレットだけで一千万円くらいするわよ」
たっか。
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