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 土曜の朝十時、探索者支援協会甲府支部エントランスで集合。

 そう言ったのは自分だろうに、リゼの奴は十五分ばかり遅れて現れた。


「ふぁ……おはよ」

「遅せぇ」

「メイクに時間取られたのよ。十二時にしとけば良かった」


 これからクリーチャー相手に切った張っただと言うのに、何故化粧の必要があるのか。

 いや深くは問うまい。男と女は所詮、別の生き物。思想も価値観も根本的に異なる存在であるからして。


「じゃ、装備に着替えましょ。五分後にまたここでしゅーごー」


 女の五分は二十分。

 吉田が前に言ってたけれども、これ如何に。






 マジで二十分だったわ。

 あのチャラ男の言葉は大抵聞き流してたが、今度から二割くらいは耳に入れてやろう。


「よし行くか」


 著名な研究者──名前は忘れた──曰く、一種の異次元であるらしいダンジョンに通ずる出入り口、通称ダンジョンゲートは殆どが支援協会の建物内に在る。

 と言うか、基本的にダンジョンゲートを取り囲む形で支援協会の施設が建てられる。も兼ねて。

 よって協会内の更衣室で装備を整えたら、そのままアタックに乗り出せる次第。


 尤も、現状の俺には全く関係無い話だが。


「アンタ、装備は?」

「持ってねぇ」


 身の丈ほどある禍々しい大鎌を携え、全身ギチギチにベルトを巻き付けた黒いレーシングスーツ風のパツパツ装束を着込んだリゼが、怪訝そうに俺を見る。

 武器は兎も角、その格好に防御力伴ってるのか、とっても不思議。

 まさしく手ぶらな俺が言えた義理じゃないけど。


「なんで?」

「金がねぇ」


 只今の全財産は、先のダンジョンアタックで儲けた分を含めて四十万くらい。エントリーモデル一式揃えるにも足りるかどうか。

 素材も製法も特殊な対クリーチャー用の装備は、兎角、高いのだ。


 あと単純に何を選べばいいのか分からん。

 ダンジョン資源、及び探索者シーカー用の装備は主に協会が売買を取り仕切ってる。

 そして協会の職員は国に雇われた公務員。必然、四角四面な役所仕事。

 要するに説明書通りの案内しかやらねーから、あれこれ聞いても参考にならん。


 元探索者シーカーの職員でも居てくれれば話も変わったろうが、生憎と甲府支部には該当者無し。

 故にこそ、リゼとの接触を図ったワケだ。


「講習の時に最低限の武器防具を貰える筈でしょ」

「あのセンス最悪な革鎧とオモチャみたいな剣か。ダサ過ぎて受け取りを拒否した」

「……気持ちは分かる。実際、私もアレは一回も使ってないし」


 百年近く昔の骨董テレビゲームに出てきそうな衝撃的デザイン。

 拳銃の弾くらいなら無傷で防げると聞かされたが、およそ袖を通す気になれなかった。


 しかも後で調べたら、甲府迷宮の六層以降に出て来るレベルのクリーチャー相手だと、ほぼ意味無いらしいし。

 大狼が煎餅同然に噛み砕く動画とかアップされてたわ。廃棄が面倒だからとクリーチャーに処理させるなよ。


「俺は人生を楽しむため探索者シーカーを志した。少なくとも探索者シーカー関連で楽しくないことは一切したくねぇ」

「たまに居るのよね、こういう斜め上に振り切ったタイプのエンジョイ勢……」


 なんとでも言え。





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