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「奢りでもなかったら、わざわざ焼肉なんて来ないわよね」

「言われてみりゃ確かにな」


 ま、今回俺は奢る側なワケだが。


「てか自己紹介まだだったわね。榊原リゼ、文学部史学科三年」

「藤堂月彦。俺も三年だ、栄養学部」

「……えーよーがくぶ? イメージと全然違うけど」


 そいつは、お互い様だろ。






 肉の匂いが充満する店内で空腹のまま話を進めるなど拷問に等しい。

 よって先に食事を済ませる運びとなったのだが……この女、華奢な身体つきに似合わず健啖家だな。栄養どこに回ってるんだ。


「私のスキル、カロリー消費激しいの」

「成程。そういうタイプもあるのか」


 本来持たざる異能ゆえか、スキル使用は代償が伴う場合も多い。

 大抵の場合は体力の消耗だが、中にはを要求してくる変わり種も存在するのだ。

 例えば俺の『双血』のように。


「逆に言うと定期的に使えばスタイルの維持がラクなのよね」

「榊原、お前ダイエット感覚で探索者シーカーやってんのか?」

「リゼって呼んで。苗字は可愛くないから」


 カッコいいじゃんか、榊原。

 女の感性は今ひとつ分からん。






「ふー満足、お腹いっぱい……カラオケかボウリングでも行く?」


 第一印象ダウナーのくせ、グイグイ来るなコイツ。

 どうせ暇だし、構いやしないが。


 しかし待て。


「俺はナンパのつもりで声をかけたワケじゃねえ」

「分かってるわよ。奢ってくれたし、話くらい付き合ったげる。なんなら一回一緒にダンジョン潜る?」


 ほう。ダンジョン攻略に必須の道具やオススメ装備なんかが聞ければくらいに考えてたが、先達の手際が実際に見られるのは良い機会だな。


「明後日以降なら、いつでも空いてる」

「じゃあ週末出掛けましょ。今日はカラオケってことで」


 結局ナンパみたくなってしまったが、気兼ねする彼女あいてが居るでもなし、まあいいか。


 支払いを済ませるべく、ポケットを弄る。

 輪ゴムで小さく纏めた万札を引っ張り出し、テーブルに転がした。


「……アンタ、財布は?」

「持ってねぇ」





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