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「しまった」


 吉田の奴に件の探索者シーカーの特徴どころか、名前や性別すら聞いてなかった。

 先走り過ぎたな。反省。


 連絡を取るべくスマホを出す。

 綺麗に半分に割れてた。


 そうそう、ダンジョンでクリーチャーに壊されたんだった。なんかこう、サイだか牛みたいなデカブツに。

 死ぬほど型遅れの安物だし、どうせ買い換えようと思ってたから別に構わんが。


 けれど参る。今頃、図書館あたりでレポート書いてるだろう吉田のところまで行くのも面倒極まる。

 ……文系の使う施設は限られてるし、そも人数自体多くない。探索者シーカーなら俺と同じ腕輪型端末を嵌めてる筈。虱潰しに聞き回る方が早いか。


「なぁアンタ。史学科に探索者シーカーが居るって聞いたんだが、知らないか?」

「私だけど」






 想像想定の十七倍ほどスムーズに進んだ先輩探索者シーカー探し。

 まさか最初に話しかけた女がドンピシャとは普通思うまい。無駄に運を使ってしまった気がする。


「それで何の用? ナンパなら、まだ講義残ってるから後にして」


 気だるそうに手を振る眼前の女は、俺が頭に思い描いていたアバウトな想像図から大きく逸れてた。

 個人的に史学科の生徒は物静かな学者系のイメージだったが、なんだ、この五分に一回のペースで溜息吐いてそうなダウナー系。


「ナンパじゃねぇよ。コレ関連さね」


 腕輪型端末を軽く指先で弾く。

 つか、よく見たらコイツ嵌めてねーじゃん。常に携帯するよう言われたぞ俺。


「最近デビューした新米でな。ちょいと先達に指導鞭撻を仰ごうと馳せ参じた次第よ」

「……そ」


 ツカミのウケ狙いで畏まってみたところ、先輩様はじっと此方を見上げつつ、真っ黒なロングパーカーのポケットから腕輪型端末を引っ張り出し、俺のそれに触れさせた。


「あァ? 今、何した? つか、なんでわざわざポケットに仕舞ってんだ」

「腕輪同士の連絡用アドレス交換。ゴツくて嫌だからオフの時は外してるの」


 コア部分が明滅し、虚空へと空間投影ディスプレイを掌サイズで映し出す。


〔『榊原さかきばらリゼ』からプライベートチャットルームに招待されました〕


 こいつチャット機能まであったのか。

 説明書まだ読んでねぇのよ。更に言えば、どこに置いたかも覚えてねぇのよ。


「講義終わったらメッセ入れてあげる。頼みがあるなら晩ごはんくらい奢ってよ」


 物怖じゼロ。

 が、しかし、至極尤もな言い分だ。


「オーケー。リクエストは?」

「肉」


 シンプルで結構。

 名前の長い食い物ほど女子力高い、みたいな謎理論に基づいた延々横文字の続くワケ分からんモノ要求されたらどうしたもんかと少し身構えてたわ。





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