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 赤ん坊くらいなら丸ごと飲み込めそうな大口を開けた、正面の一頭を躱す。

 足場の悪さも手伝い、僅かに体勢が崩れたところを、今度は二頭同時で仕掛けられる。


 どうしたもんか。コレを避けるだけなら後ろに跳べば済む話だが、そうすると包囲網が狭まってしまう。

 上手くデザインされた流れ。畜生の分際で中々に頭良いな、コイツら。


 ――よし。これならの相手には悪くない。

 使うか。スキル。


鉄血てっけつ


 内側から青い光を帯びる静脈。

 それを見とめた直後、俺の右腕に大狼が乱杭歯を突き立て――ガギンと、金属質な高音を響かせた。






 探索者シーカーとは、およそ二千人に一人のスロット持ちのみが務められる稀有な人間の集まり。

 重ねて現代社会は魔石を筆頭、ダンジョンから齎される資源の恩恵に依存して成り立ってる。


 必然、数少ない探索者シーカーに死なれたら困るワケだ。

 なので探索者支援協会に登録したスロット持ちは、最低限の戦闘能力を得るため、スキルをひとつ貰える。


 習得方法は簡単だ。あらゆるクリーチャーが稀にドロップ品として落とす紙切れ、通称スキルペーパーを使うだけ。


 スロットの枠数は人によって違う。最大八つだが、大抵は四つか五つだ。

 ちなみに俺は二つ。ワケありってのは、つまりそういうこと。

 得られるチカラが多いに越した話は無い。厳しい年齢制限タイムリミットも合わさり、スロット移植を受けるような奴は基本的に上流階級の金持ちだから、大金を積み好条件を選ぶ。


 よってスロット三つ以下は、中々買い手が付かんとか。

 そもそもスロットを売りたがる奴自体、かなり少数派だが。


 ……豆知識はさて置き。俺が得たスキルの名は『双血そうけつ』。

 己の血管、動脈を媒体に発動させることで身体能力を強化する『豪血ごうけつ』と、静脈を媒体に発動させることで肉体強度を高める『鉄血』の二種類を使える、ゴリゴリの前衛系。

 ひとつで複数の能力を持つスキルは、だいぶレアだとか。俺が使わせて貰ったスキルペーパーはランダム型だったので、相当に運が良かったと言える。


 スロット少ないんだし、色々出来た方が得だよな。

 尚、三つほど欠点もあるが、取り敢えず割愛。


「豪血」


 想像もしなかったろう硬さに大狼が怯んだ隙、引き剥がして筋力を上げる。

 打ち下ろすように殴り伏せると、奴さんの頭は卵の殻も同然に潰れた。


 仲間が死んだことで崩れた陣形。

 なまじ頭が働くだけに、大狼達は立て直すための判断を一瞬迷う。


 僅か数秒の隙。

 しかし強化された肉体なら、数秒あれば十分過ぎるほど事足りた。





「ひーふーみー、と」


 スキルの反動でクラクラする頭を押さえつつ、消えた死体の側に転がる魔石を回収。

 ゴブリンより明らかにデカい。魔石の大きさはクリーチャーの戦闘能力に比例する。


 協会登録の際に貰った、死にそうになると同じ階層に居る探索者シーカー達に救難信号をバラ撒くという空間投影式の腕輪型情報端末で確かめたところ、現状の収入は五千円ほど。

 潜った時間と比較すれば、時給高めのバイトと変わらん額。


 でも、まあ。


「クソつまんねぇバイトよか、億倍楽しいわな」





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