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 ダンジョンアタック及び探索者シーカー活動に関する交々を手助けしてくれる探索者支援協会への登録、及び一週間の講習を済ませ、いざ初めての探索。

 早くも先程、クリーチャーと総称される怪物達の中で最も有名と言えるだろう種、ゴブリンと遭遇し、蹴り殺したところだ。


 最弱の怪物として広く知られた文字通りの雑兵だが、いやはや、ヤワな成人より強いぞアレ。レベル的には格闘技の有段者くらい。

 舐めてかかったビギナーが毎年何人か痛い目を見るとは聞いていたけれど、納得。


 尚、クリーチャーは死ぬと確定で魔石、確率でドロップ品を残し、ダンジョンに還る。

 そしてこの魔石、小指の先に乗るようなサイズですらオール電化の一般住宅を半日フルで回せるほどのエネルギーを蓄えており、事象革命以前に頭の痛い問題だった燃料資源枯渇を解決へと導いた優れもの。

 ゴブリンサイズなら精々一個十円程度だが、中堅クラスの狩るクリーチャーだと五千円以上はするそうだ。






 初ダンジョンアタック開始から約一時間。都合二十五匹目のゴブリンを殴り殺す。


 命を奪うとなると、流石に素手じゃ効率悪いな。

 つっても改めて考えれば……と言うか、考えるまでもない当然の話。

 実際、講習の時にも装備一式キッチリ揃えるよう強く勧められたし。


 が、生憎スロットを買ったのと移植手術代で金欠だ。

 実は二百万ばかり残ってたものの、もう要らんと思い、スロット売ってくれた少年への追加報酬代わりに渡しちまった。

 向こうさん、妹ちゃんが来月に手術だとかで、その景気付けも兼ねて。


 どのみち泡銭だったし後悔は無いが、気分で行動の大半を決めるのは悪い癖だ。

 忘れていなければ、明日から直すよう頑張ろう。


 ……しかし、ゴブリンハントも飽きたな。


 ヒトガタを殴り潰すとか、地元でバカ騒ぎやってた暇人共を日々の憂さ晴らしで叩きのめしてた頃と正直そこまで変わらん。

 まあクリーチャーなら例えミンチにしたところで咎める奴など居ないから、加減を考えないで済む分、楽っちゃ楽。


 よし、もっと奥に行こう。講習じゃ暫くは一階層のゴブリンで慣らせと言われたが、コイツら弱くてつまらん。空手だの少林寺拳法だのの有段者と同程度じゃ話にならねぇ。


 せめて――を試すに値するレベルの相手と、戦わせて欲しい。






 俺のファーストダンジョンこと『甲府迷宮』は、大学に通うため借りてるアパートから徒歩十分の位置にある。


 全三十階層、攻略難度は十段階で下から四番目。二十番台階層にて活動する中堅の探索者シーカーも少なからず居る、まあまあ手頃な狩場。

 出現クリーチャーは五階層までゴブリンが主で、六階層以降からダンジョンの環境自体が激変する。


「聞いてた通りか」


 四角い通路が無数に伸びる如何にもな迷宮から、鬱蒼と木々の生い茂る樹海に。

 地下を進んでいたと言うのに、何故空があるのだろう。摩訶不思議だ。


「そして早速おいでなすった、と」


 草叢を蹴散らし、現れた四足獣。

 群れで来られたらボチボチの探索者シーカーでも喰い殺されることがあるという『大狼ウルフ』が五頭、俺を取り囲んでいた。





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