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 スロットとは、人間に様々なチカラを与える異能、即ち『スキル』の受け皿であり、同時にダンジョンへの侵入に必要不可欠な素養。

 分かりやすく噛み砕けば、スロットが無ければダンジョンには入れない。不可視の斥力場によって弾かれてしまう。原理は不明。


 そしてスロットは、努力どうこうで手に入るものではない先天的素養。

 事象革命と併発する形で起こった一部人類の突然変異を除き、生後に自然獲得したケースは、今日に至るまで一例たりとも観測されていない。


 ──けれど。後天的に備える方法そのものは、確と存在する。


 そのひとつが、他人からのだ。






「お前さんが売却希望者か」


 借り暮らしのアパートから一番近い土地に建つ探索者支援協会支部。

 交渉のため貸し出して貰った部屋で、俺よりも幾つか年下だろう、ちょうど高校に上がったくらいの少年と向かい合う。


「まさか、あんな条件だってのに申請から三日でオファーが来るとは思わなかった」


 なりに半年は待つつもりだった。物好きも居たもんだ。


 何せスロット売却の最低相場は一億円強。

 更に移植手術代が二千万円前後とあって、此方が出せる額は確実に相場を下回る。


 にも拘らず、どうして。

 そう胸中へと疑念を抱く俺に対し、希望者の少年は覇気の無い語調で理由を返す。


 ──重体の妹。心臓移植に必要な費用。差し迫った猶予。

 ──探索者シーカーになれるのは十八歳以降。なったところで、すぐ稼げる保証も無い。待っていては間に合わない。

 ──何より、自分のスロットは些かワケありで、買い手が付きにくい。


 等々、まあ中々に重い事情を抱えてる様子。

 要は利害の一致。相場こそ出せないが即金で支払う用意のある俺と、多少安くとも今すぐ金が欲しい相手。

 訳ありスロットとやらも、詳細を聞けば俺にとって問題と呼べるほどの話でもない。






 交渉は三十分足らずで終わった。

 格安の七千八百万円で、俺は念願のキップ獲得に臨む権利を得た。


 あとは運次第。

 スロット移植の成功確率はレシピエント側が二十代に入ると極端に下がり始め、齢二十五を数える頃には、ほぼゼロとなる。

 俺は今年で二十一歳。簡易検査の結果、今回の手術が上手く行く見込みは概ね四割弱。


 世間一般的な価値観で語るなら、一億という大金を賭けるには躊躇われるだろう数字。

 とは言え、迷わず契約書類にサインしたワケだが。





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