4.悪役令嬢、学校へ行く①

夢を見た。わたくしが断罪されて異世界へ行く夢。

「…へんな…ゆめ」

「おはよう。偽ねぇ、いい朝だな」

…子供がいる。不敬な子供がいる。…フミヤだ。

昨日のことは夢ではなかったのか

それにしても、2日連続で寝過ごすなんて令嬢としてあるまじき失態だわ。

「ほら、朝飯たべな。今日は学校だぞ。」

「朝食って…貴方がつくったのかしら?」

よく見たらフミヤはエプロン姿をしている。

「料理人はいないの?」

「なんだよ…。オジョウサマは子供が作った料理は食べられないのかよ?」

ぎろりと睨み付けられる。

いや、馬鹿にしたわけではなくて

「凄いなぁって思ったの。」

フミヤは二、三回瞬きをして

くるりと背を向けて、台所のほうに行ってしまった。

ふへへへという変な声が聞こえた後

「明日は偽ねぇが食事当番だからな!」

声だけが聞こえる。

「え!わたくし料理は、苦手なのだけれど!」

あわてているうちに文也がフライパンとライスが入った皿を運んで来た。


フライパンからジュージューと美味しそうな音と匂いがする。

「醤油は、そこにあるから勝手にとってかけろよ。あ、西洋風の異世界だからゴマドレの方がいいか?」

目玉焼きだ。それはいいのだけれど、

「ライスとどうやって食べるのかしら?あとこの棒2つをどうやって…?」

「ライスはあるのに箸と卵かけご飯はない世界観なのか…偽ねぇ、お椀かしてみ」

カップを渡すとフミヤは器用に箸?を使って目玉焼きをライスにのせる。そして、それをかき混ぜはじめた。

「これにゴマドレをいれてっと、スプーンさしとこーか?よし!これで本田家特性卵かけご飯の出来上がり!」

「なんなの、その暴力的にはしたない料理は!」

「いいから食べて」

おそるおそる口に運ぶ。パクっと口に入れた瞬間…

(美味しいわ!)

半熟の黄身と、カリカリに焼かれた白身のバランスがちょうどいい!ライスに目玉焼きなんて、合わないとおもっていたのに!

フミヤの方をチラッと見ると、ニヤニヤしていた。なんだか敗北感。

「くっ…とても、美味しいわ。」

「そーか。良かった。って偽ねぇ、時間ヤバいぞ!」

時計は7時半を指していた。


学校に遅れてしまうらしい。急いで朝食を食べ、準備をする。

自分一人で支度はあまりしたことがないので、手間取る。

これは、国外追放になってたら、生活できなかったわね…

自分の生活能力の低さに少しへこむ。

それにしても

「ちょ!ちょっとフミヤ!この制服、はしたないわ!裾が短かすぎるんじゃなくって!」

別の部屋にいるフミヤに話しかける。

「膝下まであるから長い方だぞ。」

「く、くるぶしが見えてるわよ!」

紺青の布地に薄青のリボンとスカートが生える、かわいい制服ではあるのだが…

ええーい!ままよ!

ドキドキしながら顔をだす。

「どうかしら、フミヤ?」

「んー。いつも通りだな。制服着たねーちゃん。」

乙女心を解さないやつだわ。


「制服よし!弁当よし!教科書よし!教室は2年3組って書いてる場所に行けばいいから。あとは皆に合わせな」

俺も学校行ってくるから、とつけたしながらフミヤが言った。

「ありがとう。フミヤ。いってくるわ!」

「はい、行ってらっしゃい」

玄関を開けると、通路の向こうに独特な町並みが広がっていた。灰色や薄茶の住宅がずっと奥までみっちり敷き詰められていて、奥に行くにつれてブルーグレイにかすんでいる。

そこを縫うようにねずみ色をした道路が走り、電柱が立っている。

フミヤ曰く、これでそう都会じゃないらしいのだから驚きだ。

「いつ見ても綺麗だわ…」

と、見てれてる場合ではない。階段を降りて、下にいく。

「遅刻よ…!遅刻!」

下に降りてフミヤが書いてくれた地図をみながら走る。

途中で大きなお屋敷があった。ここの領主の家だろうか?

まぁ、わたくしの家のほうが大きいけれど!

それにしても、走り回っても叱られないなんて、良い異世界!

「あれが福田パン屋ね!そこを右っと」

右、右、右と、考えながら曲がる。

そのせいか、前をみていなかったかもしれない。

ドンッ

「うわっ!」

「きゃ!」

人とぶつかってしまった!

相手は黒い学生服を着た青年だ。幸い、どちらも怪我はしていない。周辺には彼が落としたのか、本が数冊散らばっている。

なにやら小さめの本で、カバーがとれてカラフルな表紙が見えている。

どうして、トラブルばかりおきるのよ!

「ご、ごめんあそばせ!」

こうなったら、札束で人をたたくしかないのだが、本田家にそんな資金があるとは思えない。

もう、いっそのこと消炭に…。

「大丈夫ですか?お嬢さん?」

男が起き上がって、本をそそくさと鞄にいれる。

その後、手をさしのべてきた。なかなか紳士な青年ね。

美形はシルヴィオ殿下でよく見ているが、それでもハッと息をのむような顔立ちだ。カラスの濡れ羽色の髪も、瞳も、顔立ちにあう様、計算しつくされている。

エスコートには慣れているので、スッと手をとる。

「ありがとう。助かるわ。」

「見ました?」

「はい?何をかしら?」

なんだかおかしな青年ね!

「いえいえ、あ!よく見たら、本田さんじゃないか。」

「え!?」

一瞬反応が遅れてしまったが、確かに自分の名前だ。

今のわたくしの名前は本田夏蓮。と自分に言い聞かせる。

「ええ、そうだけれど、どこかで?」

青年はびっくりしたような顔をした。

「いや、会ったことはない。でも、俺のこと、本当に知らないの?」

何を言っているのかしら?この人。会ったこと無いのだから、知らないだろう。

「えぇ。存じあげないわ。」

「そうか…!」

驚いている。なんだか嬉しそうにも見える。

「俺、結構有名だと思ったんだけど…」

なにやら、ぶつぶつ言っている。

これが、フミヤが気をつけるように言ったヘンシツシャってやつかしら?

「ごめんあそばせ。」

脇を通りぬける。

すると青年は、にっこりと笑って手をふった。

パッと周囲が華やぐような笑顔だ。

「本田さん、またね。」

二度もこんなことがあるものか!

足早にその場を去る。


それはともかく、校舎がそろそろ見えてきた。

同じような服を着た少女達が、楽しそうに挨拶をかわしている。

素敵!学校って行ってみたかったのよね!

変なやつの記憶は消して、さぁ、素敵な学校ライフへ参りましょう!

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