3.悪役令嬢、魔法を披露する

「…というわけで、わたくしはプロメリア王国の公爵令嬢カリン・オルコットなのだわ!」

とりあえず、弟(仮)に事情を説明する。

弟はパチパチとおざなりな拍手をした。

「ねーちゃんが頭おかしくなったことは、わかった。バイト先には俺が電話しとくから。ネット小説でも読んで休んでな。」

全然信じてもらえないわ…。

あと、知らない単語がでてきて混乱する。ネット?バイト?

「ネット小説ってなんなのかしら?小説の意味はわかるのだけれど。」

ガタッ 聞いたとたん弟が心底驚いた顔で距離を取った。

「お前ねーちゃんじゃないな!」

「さっきからそう言ってるわ!」

「あの、小麦粉を量ることと、ネット小説を読むことしか趣味がないねーちゃんがネット小説のことを忘れるはずがない!お前は偽物だ!」

なんだか体の主がかわいそうになってきた。

自分も魔法と読書くらいしか趣味はないのだが。

「ともかく、これで信じてくれたわね」

「あぁ、お前の言葉を一旦は信用してやる。これからお前のことは『人の姉の体を乗っ取ったカレン・オルなんちゃら』略して『偽ねぇ』と呼ぼう!」

「略せてないし、不敬だわ!」

…まぁ、「裏切りの令嬢」よりかはマシかしら。

「そう言えば、名前を聞いていなかったわね…えっと」

「本田 文也、文也でいい。お前を夏蓮ねーちゃんの体から追い出すまで、よろしくな。」

「よろしく。フミヤ。」

一旦、協力者を得られて、ホッとする。

肩の力が抜けた気分だ。

フミヤの方はといえば、なにやらもじもじしていた。

「あ、あのさ。お前異世界から来たんだよな?」

「ええ。」

フミヤの顔が年相応の少年らしくなる。

「じゃ、じゃあ魔法とかあるのか!?」

え!?

「この世界って魔法はないのかしら!?」

向こうでは、基本一人一種類魔法がつかえる。

魔法の種類は精神に依存するという。わたくしは炎。珍しい魔法だ。

魔法を鍛えれば威力が上がるが、一生魔法を使わなかったり、自分の魔法をしらなかったりする人もいる。

「やっぱ使えるんだ!なぁ!偽ねぇ、見せてくれよ!」

キラキラした瞳を見ると断りづらい。というかすごく見せたい!

「いいわ!わたくしの最強の炎魔法を見せてあげる!」

深呼吸をする。空気中の霊力を吸い上げる。力を指先にこめる。だんだん、指先が赤く、熱くなってきた。

(魔法は隠れてずいぶん鍛えたものね。勢いがつよすぎて屋敷の小屋を全焼させたっけ…ってあれ?)

血の気がサーッとひく。ここは、室内。

「いけないわ!いけないわ!いけないわ!」

止めようとしたが、もう遅い。


炎は放たれた。

「ぎゃわー!」

令嬢にあるまじき声をあげて、思わず目をつぶる。

ポッ

何かが優しく灯ったような音がした。おそるおそる目を開けると

「すげー!偽ねぇ!炎でた!…ライターレベルの小ささだけど!」

指先に小さく炎が灯っていた。

良かった…。

「この世界、土地の霊力がちいさいのね…」

「土地の霊力、って何?」

「魔法を使う時にその土地の聖霊から借りる力よ。この世界は霊力がすごく小さいみたい。

わたくしは生まれつき自分の魔力が強かったから炎がだせたけど、普通の人ならまず無理ね。」

得意げに語ると、先ほどまでのなめ腐った態度は嘘のように、フミヤが尊敬の眼差しで見つめてくる。

子供って単純だわ!

でも、別に悪い気はしない。

(これまで、炎魔法を鍛えて褒められたことなんてなかったような気がするわ…)

「裏切りの令嬢」

そう呼ばれるようになったのも、炎の魔法が原因だ。

プロメリア神話には、「裏切りの魔女」が存在する。彼女は取り立ててくれた神々を裏切り、人間世界で悪逆の限りをつくした。最終的に異世界から来た聖女に退治されるその日まで。

その魔女が「炎」と「精神」を操っていたらしい。

(だから裏切りの令嬢だなんて、バカげてるわ)

おかげで、魔法の練習もさせてもらえずさんざん!隠れて練習していたものの、誰にも披露出来なかった。

でも…

「偽ねぇ、凄いよ!かっこいい!」

初めて報われた気がする。

本当に単純な子供。

とりあえず、フミヤの頭をわしゃわしゃなでておく。

「いて!なにすんだよ!」

「もし、わたくしがプロメリア王国に戻れたら、取り立ててやってもいいわ!」

「いみわかんねー」

そのために、やらなきゃいけないことが沢山ある。

転生の原因を探って元に戻らなければだし。

国外追放を阻止しなければだし。

あの女の秘密を探らなければならない。

…でもその前に

「この世界を満喫してからでもいいかしら?」

面白そうで、仕方ないわ!

探索してみたい!

「それはいいけどさ、偽ねぇ明日学校だぞ!」

はい?学校…!?

「学校には俺はついてけないし、一人で頑張れよ」

「い…いきなり、ピンチだわ!」

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