第4話 滝澤拓史、移動

 JKが登校途中にトーストを齧っていたら、もうそれは『角でDKと激突』がセットになっているものなのだ。この世はいつだってボーイミーツガールなのである(ただし滝澤を除く)。


 だがしかし、彼女は車内にいる。ハンドルを握っている私が言うのだから間違いはない。彼女は車内でトーストを食べている。電車内で菓子パンを食べている若者は幾度となく目撃してきたが、家で焼いた食パンを齧っているのは実は始めてだ。創作物の中ではもう一万回くらい見ているのに。


 ちなみに私、滝澤の趣味は読書である。

 けれど、悲しいかな、安月給のサラリーマンだったためそう頻繁に本を買うことは出来なかった。毎日財布の中身とにらめっこしては、御影石みかげいし流石さすが先生の『LOVE ME BETTERシリーズ』を買おうか、それとも発泡酒を買おうかと悩んだものである。もちろんひいきにしているのは御影石先生だけではない。彼女が連載を持っている月刊アネモネには私のこのハートをドッキュンドッキュン高鳴らせてくれる胸キュン作品が目白押しなのである。


 月の何日かは発泡酒を諦めてラブコメ漫画を買っていた私、滝澤だが、近年では『ヨミカキ』なる天国のような小説投稿サイトに出会うに至り、漫画も良いけど活字も良い、などと思いながら、『ラブコメ アオハル じれじれ』といった検索ワードで好みの作品を見つけては、狂ったように読み漁る毎日だ。


 その私が言うのだから間違いない。

 あともう数刻もすれば、DKが現れるはずだ、と。


 しかし、問題がある。


 そう、彼女は車内にいるのである。

 ハンドルを握っている私が言うのだから間違いないのだ。


 どうする。

 出てきたところでどうする。

 彼女を(物理的に)放り投げてぶつからせれば良いのだろうか。

 恋が生まれるその瞬間に立ち会えるのは僥倖ではあるが、この場合、私の罪は何になるのだろう。


 それよりもっとまずいことがある。


 そう、角でぶつかる、ということは、だ。


 もしかして滝澤が、そのDKを曲がり角で撥ね飛ばすのでは? と。

 

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