第3話 滝澤拓史、妄想

 やはり私の読み通り、というのか、このJKはそれから一切言葉を発しなかった。そりゃあこのJKの方でも、こんな爽やかな朝におっさんとトークバラエティに興じたいわけではないだろう。


 というか、彼女は食パンを齧っているし。


 時間というものは誰に対しても平等である。このくたびれたおっさんである滝澤にも、このフレッシュピーチなJKにも、与えられているのはきっかり24時間。彼女のような学生の場合、登校時間が決まっているため、それに間に合うよう逆算して起き、身支度を済ませなくてはならない。


 朝食の時間を削ってでもギリギリの時間まで寝ていたい派、

 朝はしっかり食べたいのである程度早めに起床する派。


 果たしてこのJKがどちらの派閥に属しているのかはわからないが、パンを齧っているということは朝はしっかり食べたい派ということが予測される。つまり、基本的には早めに起きて朝食を食べていたのだが、今朝はたまたま寝坊をしてしまい、このような手段を取らざるを得なかった、という。


 このような手段、つまり――、


 ついうっかりアラームをミスったか、あるいは母親に「ちゃんと起こしてね」と念を押さなかったばっかりに(大抵の場合「おかーさんはちゃんと起こしたわよ!」と逆切れされる)寝坊をしてしまい、いっそ朝食は諦めてダッシュしようかと思ったけど、何も食べずに授業を受けたら確実にお腹の音が鳴っちゃって(そういう時に限って教室内が静かだったりする)、せめてポップな『きゅるる』とかなら良かったのにやけに重低音を響かせた感じの爆音だったりして気まずいことこの上なかったりするもんだから、それじゃあれだ、少女漫画とかでよくある『トーストをくわえながら走ったら良いじゃん』というやつに思い至ったものの、実際にそんなことしたらのどに詰まらせちゃうんじゃないかな? そんなことになったら私の死因、『トーストをくわえながら走ったら、それをのどに詰まらせて死』なんてことになっちゃうじゃん、そんなの乙女の死に様として絶対にありえへん! よぉーしこうなったらちょっとブルジョワだけどタクシー拾っちゃえ! 


 という。


 しかし、である。


 JKがトーストを齧っている、と来たら、不可欠なのは曲がり角でぶつかるDKなのではなかろうか。ちなみにこの『DK』というのは『男子D高校生K』の略であって、ドンキーコングではない。

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