第2話 滝澤拓史、発進
「すみません、お願いします!」
「いらっしゃいませ、どちらまででしょう」
「あの、学校! いやえっと、高校です。あの、伊波川を渡ったところの」
「かしこまりました、
僥倖である。
記念すべきお客様第一号がまさかの
自慢じゃないが私、滝澤拓史、女人からモテにモテない人生を歩んできた。男ばかりの5人兄弟の末っ子ともなれば、まーた男かと産まれた瞬間すらちやほやしてもらえず、あらこの子、上のお兄ちゃんよりもアレが小さいわねホホホ、などとイチモツのサイズにまでケチをつけられる始末。
こういうキャラの救済措置として、実は動物からはモテモテで――などという展開に期待してみるも、普段から誰にでも腹を見せることで有名な近所の与作(柴犬)も、誰彼構わず牙を剥くアーデルハイド(チワワ)も、皆等しく狂ったように吠えてきたものである。解せぬ。
さらにいえば植物からもなかなかの嫌われっぷりで、朝顔は早々に開花を諦め、ひまわりは頑なに私の方を向かずに育つときたもんだ。おい神様、ちょっとそれはないんじゃないのか。
とにもかくにも、人間のみならず、動植物にまでモテなかった私は、当然のように独身である。BMIも平均値だし、頭髪に問題を抱えているわけでもない。体臭や口臭などのケアも怠っていないし、見た目にかなりのハンデを有しているわけではないと思うのだが、それはわからない。
この地球上には約76億人もの人間がおり、その約半分を女性だとしても38億人いるわけだが、私のことを好いてくれる女性にはいまだ出会ったことがないのである。まぁ地球レベルに範囲を広げずとも、この小さな島国日本にしたって1億6,000万人ほどいるのである。何なら女性に限定せず、いっそ老若男女総出で掛かってきてほしいところではあるのだが、日本という国が束になってかかってきても華麗にスルーされる自信しかないし、スルー出来る自信しかない。それが私、滝澤拓史なのである。
そろそろ読者諸君もお気づきかと思うが、脳内での私はラジオパーソナリティー並に饒舌なのだが、この軽快な語り口は決して外に出ることはない。無口というか、話下手なのである。そんなのがタクシー運転手で大丈夫なのかとも思うわけだが。
しかし、車内でタクシードライバーと談笑したい客など案外少ないはずだ。稀に会話が弾む場合もあるのだろうが、話好きの運ちゃんが勝手にしゃべりまくるのにお客様が仕方なく付き合っているに過ぎないのである。
そう信じていよいよ発進、滝澤タクシーである。
季節はきりりと冷えた冬。身の引き締まる思いである。
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