第93話「簡単なアイデア」

 前世では空から偵察する部隊が存在していた。

 今のこの時代にはいないみたいだけど、復活させるのはどうだろうか。


「またとんでもない思いつきに聞こえるけど、どうすればいいのか、具体的なアイデアはあるの?」


 アデルは笑わず、可愛らしく首をかしげた。

 

「魔法だと無理なんだよね……」


 と俺は苦笑する。

 空へと飛びあがること自体は、そんなに難しくはない。


 難関なのは空に浮かび続けるために、魔力を消費し続けることだ。

 今の俺の魔力だって、長い時間は飛べない。


「何か道具を使うといいかも」


 俺は何となく言った。


「空に浮かぶための道具? 飛行船だと目立ちすぎるわよね」


 アデルは真剣な顔で考えはじめる。

 

「そもそも飛行船は技術的にも素材的にも、量産は不可能かと思います」


 少しあとを歩く従者ユーリの指摘はもっともだ。

 飛行船は動力源を作るのがまず簡単じゃない。

 

 希少な素材と高度な技術が要求される。

 それに動力源が放つ熱に耐えるための工夫も必要だ。


 大賢者様が健在だった頃は、あの方が何とかしてしまったので、現代ではまねができるはずがない。


 素材が希少であるがゆえに、技術を磨くチャンスに恵まれず、前世と比べて進歩しなかったのだろう。


「個人レベルでも作れて飛べる道具があればいいな、とは思うね」


 と俺は言ってみる。


「何かアイデアがありそうね?」


 アデルは婚約者の勘を働かせたらしく、上目遣いで問いかけてきた。

 

「俺のアイデアだと簡単すぎて、発見次第撃墜される代物になりそうなんだよね」


 と正直に答える。

 なんせ材料は木と紙のつもりだから。


 そのことを告げると、


「簡単すぎて不安になるけど、魔法で強化すれば平気かしら?」


 アデルは否定せず、考え込む。


「現物を用意して、魔法で強化・制御するなら、魔力の消費はずっと抑えられるよいアイデアかと思います」

 

 とユーリが褒めてくれた。


「まあ、俺の狙いもそこにあるからね」


 生産ハードルが低いことと、魔力の消耗が抑えられること。

 この二つを抑えていれば、開発が前向きに検討される可能性が出て来る。


「そんなすぐには実用化はできないだろうけど、研究が進むことに価値はあると思うんだ」


 少なくとも空の戦いが今後起きる可能性はあるだろうし、何も手をつけてない状態よりはマシのはず。

 

「お父様にさっそく提案してみるわね」


 アデルがはりきった様子で言った。


「受け入れられるかな?」


 俺は首をかしげる。


 御屋形様は話のわかる方だけど、突拍子もない提案を即断で承知する人ではない気がしていた。


「ダメならレーナ・フィリス殿下がいらっしゃるわよ」


 アデルは笑顔で言う。

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