第91話「演習後のお茶会」

 すっかり恒例化したレーナ・フィリス殿下とアデルとのお茶会に、今回もアデルと一緒に参加する。


「なかなかタメになる訓練だったわ」


 と王女はふり返った。


「こちらに事前連絡せず、不意打ちというのがいかにもジュディス隊長らしかったですね」


 とアデルが苦笑しながら言う。

 

「本当ね。不意打ちのほうがよりいい経験になると言われると、否定できないのだけど」


 王女は苦笑をこぼす。

 彼女たちが言いたい気持ちはわからないでもない。


 ただ、前世でも似たような考えの持ち主はいたものだ。

 時代が変わっても、案外人の考えは変わらないものなのかもしれない。

 

「ユーグはどう思う?」


 とお茶をひと口飲んだあと、アデルが聞いてきた。


「そうだね。ちょっとでしゃばりすぎたかな、と少し反省しているよ」


 俺は正直に答える。


「ああ、別メニューを言い渡されていたものね」


 アデルも苦笑し、つられたように王女や他のご令嬢たちも笑みをこぼす。

 

「最初の奇襲はまだしも、学園に戻ってからの襲撃は、ジュディス隊長によるものだとは思わなかったんだよね」


 気づいていれば、もっと手加減したのだけど、と暗に伝える。

 

「それは仕方ないわ。わたくしだってあれには気づかなかったもの」


 と王女は笑った。


「同感よ。肝が冷えたし、ダーリンがすぐそばにいてくれて心強かったわ」


 とアデルが力強く言う。

 

「ユーグ様が見事な働きぶりだったのを、咎めるのはおかしいですよ」


 他のご令嬢たちもみんななぐさめてくれる。


 ……美しい令嬢たちに囲まれ、他に男はひとりもいない状況なのは、ちょっと落ち着かない。


 こればかりはそんな簡単には慣れないものだなあ。

 と思っていると、話題は変わる。

 

「朗報がひとつあるのよ。帝国軍をネフライト率いる部隊が打ち破り、帝国軍は国境砦を放棄して、内部に退却。こちらの勝利よ」


 と王女が笑みを浮かべて報告したのだ。


「まあ! お味方が勝利しましたのね!」


 お嬢様たちがいっせいに笑顔になり、歓声が沸き起こる。


 いやな情報が最近は多かっただけに、暗い雲を一気に吹き飛ばす風が吹いた気持ちにしてくれる、喜ばしい情報だ。


「帝国が軍を引いたのなら、魔族と皇国に集中できますね」


 と俺は言う。


「いえ、皇国もおとなしくなったわ。それが朗報の二つめよ」


 と王女殿下は首を横に振ったあと、笑顔で告げる。


「えっ?」


 予想外の展開だった。

 皇国には策略家がいるらしいから、しばらくは鬱陶しいと思っていたのだ。


「もしかして皇国は帝国と手を組んでいたのでしょうか?」


 とアデルが首をかしげる。


「おそらくとしか言えないわね。今のところは」


 と王女は答えた。 



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コミカライズ2巻が7月18日に発売予定です。

よろしくお願いいたします。

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