第90話「お見事です」

 レーナ・フィリス殿下の予想通り、さらに二回の襲撃を乗り越えて、俺たちの演習は終わった。


「さすがにへとへと」


「ジュディス隊長、容赦ない……」


 何とか学園へたどり着いて、愚痴に近い感想をみんなでこぼす。

 正直いきなりこんな大変だとは思わなかった。


 敵が大国と魔族の両方となることを想定するなら、いつかは厳しくするしかないのだろうけど。


「ダーリンはまだ余裕そうね」


「さすがだわ」


 アデルに顔色を見抜かれ、ノエルに賞賛された。

 

「まあ、鍛えたら強くなれるからね」


 と俺はあいまいな笑みを浮かべる。

 正しく鍛えれば強くなれるし、それが実感できるのは楽しい。


 知識は力だった。

 学園に戻れば大きな運動場に行き、そこで解散となる予定らしいのであと少し。


 運動場への通路をぞろぞろと歩いていると、不意にいやな気配を感じた。

 立ち止まって上を見ると、校舎の開いた窓からいくつもの人影が降って来る。


「襲撃!」


 俺につられて立ち止まったのは数人だけで、特に前を歩くレーナ・フィリス殿下たちは気づいていないので、声をはりあげて警告した。


 みんなあわてて武器を取り出してかまえるが、虚を突かれたせいだろう。

 完全に飲まれて押されている。

 

 これも演習の一部かと一瞬思ったけど、もし違っていた場合……レーナ・フィリス殿下をはじめ、何人もの貴族が殺傷されてしまうだろう。

 

「《風の息吹》」


 付与魔法を発動させ、襲撃者と戦う味方に加勢する。

 というか、襲撃者の背後から一撃を加えるとあっさり気絶した。


 奇襲する能力は高いけど、防御技術と耐久力は大したことがないな?

 この程度の敵ならあわてる必要はない。


 落ち着きを取り戻して観察してみると、味方は押されているものの、みんな粘っている。

 

 俺と同じく冷静になった人はだんだんといい勝負するようになっていた。


 とは言え、全員がそうもいかないみたいなので、不利な状況なところへ加勢に行く。 

 

 ひと息ついた味方たちがどんどん加勢するので、戦いはだんだんこっちの勝利で終わった。


「勝った」


「何とかなったね」


「この敵たちは何だったんだろう?」


 勝利を喜び、安どの空気に満ちると、倒れていた敵たちが黒い霧になって消える。


「き、消えた!?」


 驚愕の声があちこちから生まれた。


 俺も驚いたけど、そう言えば大賢者様が開発した魔法の一つがこんな感じだったような?


「お見事です」


 そこへジュディス隊長をはじめ、近衛が何人か姿を見せる。

 

「みなさまは見事に演習をこなされましたが、次からユーグ殿はひとり別メニューにしましょうか」


 ジュディス隊長は呆れた表情でこっちに目を向けながら言った。

 やりすぎたかもしれないという感覚は自分でもあったので、こくこくとうなずく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る