第89話「感心しただけ」
「君たちはかなり優秀だね。おそらく彼の存在が大きいのだろうけど」
とアーモンド伯は言ってこっちを見る。
うん、俺?
何かやっちゃいました?
「先日の舞踏会以来ですね、アーモンド伯」
そこでレーナ・フィリス殿下が伯爵に話しかけた。
「殿下、お久しぶりです」
二人とも砕けたあいさつなのは、公的な場ではないからだろうか。
「たしかに彼の存在は大きすぎたと思います。自分たちの力で乗り切れたという手ごたえは正直あまりありません」
と王女はにこやかに言い放つ。
え、マジで?
でしゃばりすぎないように気をつけていたつもりなんだけど、やりすぎてしまったかな?
「そうでしょうな。ですが、それはいいのです。集団での彼の動きを見るというのも、今回の審査でしたから」
アーモンド伯は答えてからもう一度俺をちらっと見る。
「俺の動き、ですか?」
意図がよくわからない。
「ええ。君の働きに上は期待しているということだ」
アーモンド伯の言葉は意味ありげである。
「彼は我が家の一員ですよ?」
アデルがこわばった顔で言うが、これはけん制しているのか?
彼女から独占欲みたいなものを感じる。
「もちろんです。だからこそ、つり合いがとれるというもの」
アーモンド伯の言葉の意味は、やはりよくわからない。
「それならいいです」
とアデルの表情が軟化する。
何かの攻防があったような空気感だ。
「では採点が終わったので、引き続きがんばってくれ」
とアーモンド伯は言い残して去っていく。
「まさかの事前説明なしの奇襲が訓練だったなんて」
悔しそうな顔で言ったのはレーナ・フィリス殿下だ。
「さすが実戦的ですよね」
そういう手があったかと俺は感心する。
「ユーグ、喜んでる?」
アデルに聞かれたので、
「感心しただけだよ」
と訂正しておく。
さすがにこの手の心臓に悪い不意打ちを食らって喜ぶほど戦闘狂じゃない。
「ジュディス隊長が関わってるのかしら?」
と令嬢のひとりが言う。
「たぶんね。あの方は厳しいトレーニングを推奨しているもの」
というのがレーナ・フィリス殿下の意見だった。
偏見かもしれないけど、俺も同じ意見である。
他人に厳しく、自分にはさらに厳しく、を地で行くような人だ。
ジュディス隊長が提案者かどうかまではわからないけど、 少なくとも反対しなかっただろうと思う。
「さ、気を取り直して訓練に戻りましょう。ジュディス隊長がもし関わってるなら、今回だけで終わるとは思えないわ」
とレーナ・フィリス殿下が言う。
みんな「うへー」と言いたそうな表情になるが、全員声には出さなかった。
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