第87話「奇襲」
ご飯を食べ終えて片付けがすんだところで、
「敵襲! 敵襲!」
離れた位置で見張りをしていた学生が大声で叫ぶ。
「敵襲!? ここで!?」
ご令嬢や王女に動揺が走ったのは仕方ない。
このあたりは治安が良くてモンスターも盗賊も出ないと評判の地域の街道だったからな。
だけど、見張り生徒の勘違いじゃないことはすぐにわかる。
狼に似たモンスターが俺から見て前方に三十体ほど、右手側から小鬼たちが二十匹ほど姿を見せた。
「五十を越すモンスターが平和な地域に現れるって、あり得るの?」
近くにいたレーナ・フィリス殿下が発した疑問に俺も賛成である。
もっとも考えるのはあとだ。
そんな強くはなさそうだけど、五十もの数がいれば討ち漏らしが出るリスクがある。
どうするか……。
指揮官役の生徒が、隊を二手にわけ、俺は右手側から来る小鬼たちに備えることになった。
「ダーリン、どう思う?」
とアデルが小声で聞いてくる。
「素直に考えるなら魔族が怪しいな」
この手のトラブル、魔族ならお手の物だから。
問題は素直に考えていいのか、それともミスリードなのか。
それにこのタイミングで来たのは偶然なのか、ここにいるメンツを狙ってきたのか。
考えることは多い。
「まずは乗り切ってからだな。この数なら被害出るかも」
緊張感があまりなさそうな婚約者候補に忠告する。
「うん」
アデルだけじゃなくて近くにいた女子たちの表情も引き締まった。
護衛の生徒たちが前に出て食い止め、ご令嬢たちはあくまでも自衛する。
魔法で援護するほどの連携は練習中だし、この人数だと実戦でやるのは厳しいだろう。
ここを突いてきたならいい戦略だと思うけど、その場合俺たちの動きが敵対勢力に漏れている可能性も検討しなきゃ。
これ以上考えるのは他人に任せられたいいなと願いつつ前に出る。
「《水流弾》」
俺が選択したのは水の魔法だ。
「《水流弾》」
そして連続して放って、なるべく広い範囲で小鬼を巻き込む。
「ギャアアア!」
小鬼たちはおぞましい絶叫をあげて絶命するが、半分くらいはすり抜けられてしまった。
「連続詠唱!?」
「すごい、一気に半分に!」
生徒たちは俺の魔法に驚き勇気を持ったように見受けられる。
士気というのは戦いの上でかなり重要だ。
期せずして士気をあげられたならよかった。
「離れずに固まった方がいい!」
俺は敬語を使わずに叫ぶ。
「あ、なるほど」
何人かの生徒は俺の言いたいことを理解したらしく、近くにいる者同士で固まる。
そして数人がかりで一匹の小鬼に魔法を集中して浴びせていく。
うん、攻撃を集中することで、疑似的に一対複数の状況を作れるのがいいのだ。
俺が言うのもなんだけど、あの一言でよくわかったな。
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