第86話「避けられない運命」
突然としか言えないタイミングで、俺たちは実践的訓練を課せられた。
発案者はジュディス隊長であり、レーナ・フィリス王女が賛成した以上は、誰にも覆せない。
というわけで俺たちは王都から馬車で半日以上かかる場所に遠征に来ていた。
学園は休みになるどころか、カリキュラムとして採用されることになった。
王女が関わっているくらいだから、学園のほうが調整したのだろう。
これこそ権力ってやつだ。
もっとも魔族や帝国や皇国となると、国家ぐるみで対抗していくのは当然だが。
「これが携帯食ですか」
ヴァレリー様をはじめ、貴族の令嬢たちは初めて味わう携帯食に微妙な表情をしている。
慣れておくべきなのは実戦だけじゃなくて食事もだということで、今回のカリキュラムの最中は携帯食を実際に食べているのだ。
彼女たちははっきりと不満を言わないだけ分別があるというべきだろう。
兵站の負担を少しでも軽くするため、入手しやすくて保存しやすいものが優先され、味は後まわしにされている。
結果として食べられないよりはマシというものが出来上がった。
前世でも携帯食はまずかったので、今のほうが多少はマシだったりする。
世の中はいろいろとよくなっているのに、味と利便性、コストは両立させるのは難しいのかと嘆きたくなってしまう。
もっとも、軍隊が金食い虫で予算が有限である以上、避けられない宿命なのかもしれないが。
「ダーリンは平気そうね」
と隣に座るアデルに言われる。
「経験しているから」
と答えたけどこれはウソじゃない。
侯爵家に引っ越す前でも父に言われて食べたことがある。
「ああ、実家がそうだものね。頼りになるわ」
アデルは納得し、うれしそうに微笑む。
彼女にとって頼りになる存在であり続けたいと思う可憐さだ。
こんな婚約者がいる人生はとてもうれしい。
「イチャイチャしないでくれない?」
と呆れた顔で言ったのはレーナ・フィリス殿下である。
侯爵令嬢のアデルに向かって遠慮のない物言いができるのは、この人くらいしかいない。
「べ、別にイチャイチャしているわけでは……!」
アデルは真っ赤になって否定する。
こういうところも可愛いなと見ていると、なぜか彼女に睨まれた。
「もう、こっちを見ていないであなたからも何か言ってよ!」
どうやら援護しなかったことが不満らしい。
ここはアデルの味方をするとしよう。
「殿下。今のはただのコミュニケーションです。イチャイチャとはもっと甘い言葉を交わし、雰囲気にも出す行為かと思います」
と言うと女性たちにアゼンとされてしまった。
「まさか生真面目な正論で反撃されるなんて、さすがに予想外だわ」
と王女は言う。
ほかの女性たちは何も言わなかったけど、表情は同じだった。
アデルでさえ例外じゃない。
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