第75話「紹介」
「今日はアデル様たちに紹介したい人たちがいるの」
次の日の昼休み、レーナ・フィリス殿下の招待に応じて例の部屋に行くと、彼女のかたわらに知らない三人の少女が立っていた。
背後にそれぞれ少女がひかえてるので、いいところのご令嬢だろう。
「メルデ伯爵家のヴァレリー様、ミーズ伯爵家のレイア様、フラル伯爵家のシビル様よ」
王女が名を明かすと、少女たちは左から順番に優雅な礼をしていく。
「全部魔族の襲撃を受けた家ね」
とアデルが小声で教えてくれる。
情報にあった三つの伯爵家の令嬢たちか。
全員美人なのは貴族だからなんだろうな。
「実際に魔族の脅威を肌で感じた者同士、仲良くできたらと思って企画したのよ」
とレーナ・フィリス殿下は説明する。
「異論はございません」
アデルは微笑を浮かべて三人に返礼した。
王女の思いつきを拒否できる立場じゃないし、しないほうがいい案件だし。
「アガット家のアデル様、家中で武勇誉れ高いと評判のデュノ様とお近づきになれて光栄です」
ヴァレリー様が代表するように話しかける。
同格の伯爵令嬢が三人も同じところにいる場合、序列ってどうなるんだろう?
あとでアデルに聞いてみようか……。
さすがに今回は大きめのテーブルが用意されている。
アデルは王女の右隣、俺はその隣に腰を下ろす。
伯爵令嬢三人は王女の左隣から三人並ぶ。
シリルたちが人数分のお茶を淹れてくれた。
「では今日という日に感謝をしながら、素敵な時間を過ごしましょう」
と王女の言葉は珍しい。
何か形式にのっとったもののようだ。
本題にはいきなり入らず、流行の香水やファッションの話からはじまった。
腹の探り合いと言うよりおしゃべりを楽しんでる風にしか見えないけど、貴族令嬢はそんな可愛い生き物じゃないと、アデルを見てきて知っている。
幸い、俺は聞く側に回っているから楽だった。
「デュノ様はどのような修行法をしているのですか?」
と思ったらヴァレリー様が不意打ちで切り込んでくる。
これは話してもかまわないだろう。
「まずは短縮詠唱の練習ですね。これが俺の場合は生命線ですから」
というかもっと短縮詠唱の使い手が増えてくれないと、いろいろとまずい状況なんじゃないだろうか。
「デュノ様の詠唱は信じられない速さだと、わたしどもの間でも評判になってますわね」
とシビル様はおっとりと言う。
制服のリボンを見る感じ、学年はひとつ上なんだよな、三人とも。
「学年を超えた評判になってるなんて、さすがユーグだわ」
とアデルが褒めてくれたが、『わたしの』と言外に込めたことにちゃんと気づいた。
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