第74話「あらためて」

「あらためて話を詰めさせてもらうけれど、アガット侯爵家は王家の支持基盤であると、公式に喧伝されることになるわ」


 というレーナ・フィリス殿下の言葉はもっともだ。

 王女の取り巻きをやってるのに親しくないなんて誰も信じないからな。


「ええ、当然ですわね」


 アデルも笑顔を崩さない。


 もともと王家に反発してる貴族よりも、支持層のほうが強いという授業を思い出す。


 中立に近い立場だったアガット侯爵家と関係が深くなるのは、王家にとってもメリットはあるだろう。


「これからは登下校時も、休み時間もなるべく一緒に過ごしてもらうことになるのもかまわないかしら?」


「とても名誉なことだと存じます」


 取り巻きになるということは、王女のために時間を拘束されるってことになる、という確認だった。


 侯爵令嬢(アデル)が知らないはずはないけど、これもまた手順なんだろうか。


「もちろん、ユーグ様もよ?」


「ええ」


 レーナ・フィリス殿下が一瞬だけいたずらっ子みたいな笑顔になったのは気になるけど、俺に拒否権なんてないに決まってる。


 それに彼女たちを通じて王家と王家に近い大貴族たちの評価をあげていくためには、重要なポイントだ。

 

 彼らからの評価が高いほどできることが増える。


「ユーグ様はわたくしの警護もになっていただくということで、手当ては王家から支給されるわ」


 そのかわり何かあるごとに褒賞はもらえない、ということだろうと王女殿下の言葉を受け止めた。

 

「何か質問はあるかしら?」


 とレーナ・フィリス殿下が確認すると、


「一点ございます」


 アデルは微笑で即答する。


「殿下のご学友を紹介していただけるのでしょうか?」


 言われてみれば、王女なのだから交流がアデルだけでとどまるはずがない。

 ご機嫌うかがいはもちろん、家の紹介などもあるだろう。


「ええ、もちろんよ」


 殿下は予想していたと微笑む。

 

「一度に紹介するのは大変なので、順次ということになるけれど、それでいいわよね?」


「はい」


 アデルは異論ないと答える。


 まあ大貴族の子女たちが一堂に集まるとなると、準備もさることながら、何事かと思われて悪目立ちしてしまうだろう。

 

 学園内にも中立や反王家の貴族がいないわけじゃない。

 彼らの結束をうながすような悪手は避けたいのだろうと推測する。

 

「それでは頼りにさせていただくわね、アデル様。ユーグ様」


「光栄に存じます、殿下。微力ですが精いっぱい努めます」


 アデルは優雅に一礼して答え、俺も彼女に続いた。

 

「じゃあ堅苦しいお話はここまでにして、あとはお茶を楽しみましょう」


 と王女に言われて、他愛もない雑談がはじまった。

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