第71話「舐められたら負け」

 数日を置いて学園生活は再開されることになった。


 犠牲は軽微だったこともあって、魔族といえども過剰に警戒して舐められてはいけない、という考えが有利になった結果である。


「貴族は面子が生命線だから。舐められたら負けなのよ。外国の目もあるからね」


 とアデルが苦笑気味に話してくれた。

 王国は外国とそんなに仲がよくない。


 とくに帝国とは小さな小競り合いを長い間くり返している、宿敵に近い関係性だと言える。


「弱いところを見せたら、こんな状況でも攻めてきかねないのが帝国なのよね」


 とアデルは学園の門をくぐりながら語る。

 対魔族で同盟を結ぶのが理想的だと俺は思う。


 前世だって英雄と大賢者様のよび賭けで人類大連合を築いて、何とか勝てたのだ。

 でも、いまの時代で同じことをやるのはなかなか厳しいだろう。


 何しろ大賢者様たちのような能力とカリスマ性を兼ね備えた、偉大なリーダーに該当する者が誰もいない。


 リーダーなしで人類が団結するのは困難だと、前世でも思い知らされたものだ。

 

「ごきげんよう、アデル様」


 学園の敷地に入ったところでばったりレーナ・フィリス殿下にでくわす。


「ごきげんよう、殿下」


 とアデルは優雅に礼をし、俺は無言でそれに倣う。


「アデル様とユーグ様のおかげで命拾いしたわ。改めてありがとう」


 レーナ・フィリス殿下はスカートの裾をつまんで礼をする。

 たまたま近くにいた人たちからはざわめきが起こった。


 王族の女性は対等以上の相手にしかしなくてよいとされるので、つまり俺たちは王家からの覚えが大変めでたいということになる。


 彼女の性格から推測すると、わざと多くの耳目が集まる場所を選んだ可能性もありそうだ。


「悪いけど、お話をしたいの。時間をとってもらえる?」


 要望の形をしているけど、相手が王女となれば事実上の命令である。

 

「御意。場所と時間はいかがいたしましょう?」


 アデルは侯爵令嬢にふさわしい、上品な笑みで対応した。


「放課後。いつもの場所でお茶を。こちらで主催するわ。規模は小さいけどね」


 殿下主催のお茶会なんて、呼ばれるものなのか。

 さすがのアデルも一瞬だけ驚きを漏らしてしまった。


「たいへんな栄誉を賜り恐悦至極に存じ奉ります、殿下」


「そんなたいそうなものじゃないわ。お礼のたぐいだから」


 レーナ・フィリス殿下は微笑と言うよりは苦笑に近い笑みを浮かべる。


 派閥の勧誘とか、学友として認められたといったものではない、と明言されてしまったけど、これは彼女らしい。


「御意」

 

 答えるアデルも予想していたとばかりのすまし顔だった。

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