第70話「目的はわからないまま」

 御屋形様の話によると、ほかにも諸侯(土地持ち貴族)も王都にやってきているらしい。


「どうやらうちと王家のみが狙われたわけではなさそうだ」


 とワインを片手に御屋形様が言う。

 

「まさか」


 御屋形様の隣に座るアデルの顔が青ざめて、肉を切ろうとしていたナイフが止まる。


 魔族がつるむなら少数じゃなさそうだとなんとなく思っていたけど、想像より規模はデカいのかも。


「三つの伯爵家が魔族に襲撃され、撃退したと王家に報告していた」


 御屋形様は言ってからワインをぐいっと飲む。

 なんか奇妙だな。


 魔族のなかには悪知恵が働く者がいるし、組織だった動きを見せるときはたいてい誰かが作戦を立てている。


 王女殿下のときもアデルのときも隙を見事に突かれた形だった。

 おそらくほかのケースでも同じだろう。


「どうした、ユーグ? 何か気になることでもあるのか?」


 御屋形様に目ざとく気づかれたので、思ったことを口にする。


「失敗続きなのがおかしいと言いたいのか?」


 御屋形様の言葉に大きくうなずく。


「魔族のたくらみが一度も成功しないなんてことがありえるんでしょうか? すくなくとも二回は奇襲されてるのに?」


 と言うと、アデルが首をかしげた。


「それはダーリンがいたからでしょう? 魔族にしてみればとんでもない誤算だったと思うの」


「俺もそう考えていたんだけど」


 なんとなく引っかかるんだよなあ。


「何か根拠はあるのか?」


 と御屋形様に問われる。


「ありません」


 首を横に振ってただの勘だと認めた。


「では掘り下げるのは無理だな。各戦力が優秀だったからできたのだ、という結論は動かんだろう」


 御屋形様の言葉がすべてだろうな。

 さすがに魔族がわざと失敗したとは考えられない。


 せいぜいこっちの戦力を探ったくらいか?

 ……単なる思いつきだったけど、意外とあり得るかもしれない。


「御屋形様、この国の戦力を探るのが魔族たちの一番の目的で、襲撃は失敗しても成功してもよかった、というのはいかがでしょう?」


 御屋形様とアデルの視線を感じていたので、言葉に出してみた。


「なるほど、一理あるかもしれんな」


 御屋形様はあっさりと認めてくれる。


「ただ、それでも結論を変えるのは難しい。せいぜいこちらの戦力が調べられている可能性を指摘するくらいか」


 それだけだとあんまり意味はないかも?

 

「それでも何もやらないよりはマシかもしれませんね」


 とアデルは言う。


「うむ。すくなくとも魔族の襲撃はこれからもあるだろうしな。目的はわからないままだが……」


 御屋形様の言う通りだ。

 こっちの戦力を探っているとして、何のために?


 単に攻め込んでくるつもりなら、別のやり方があると思うんだが。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る