第68話「どうして?」
アデルたちが待つ屋敷に戻ると、本人がすぐに出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
彼女の笑顔を見ると帰ってきたのだと実感し、ホッとする。
ユーリはその後ろでほかの使用人たちと一緒にそっと頭を下げた。
「詳しい話は中で聞かせてくれる?」
とアデルは言う。
王家の反応がどうだったのか知りたいのだろう。
特筆すべきことは何もなかったと思うんだが、俺が気づかなかったことを彼女ならわかるかもしれない。
彼女の部屋に行き、三人だけになってユーリがお茶を淹れてくれる。
彼女の部屋は相変わらず花のようないい香りがして趣味がいい。
「じゃあ王城でのことを話すね」
と前置きして、陛下と会ったことをアデルに伝える。
「そうだったの……」
アデルはすこしアテが外れたような表情になった。
「思っていたのと違ったか?」
と俺が聞くと彼女はうなずく。
「もうちょっと情報をいただけると思ってたのだけど……」
「俺が信用されてないってことかな?」
と俺は言う。
これがアデルだったらもっと踏み込んだ情報をもらえたのかもしれない。
「どうかしら。ただ現段階ではまだ不確かな情報しか持ち得ていないのかも」
とアデルは答える。
「王女殿下が魔族に狙われるだなんて、ただごとじゃないですから、情報を集めるのにも慎重になっていると考えられます」
シリルも言う。
アデルが狙われたこと、アガット侯爵家も表ざたにはしてないもんね。
王女殿下の場合はさすがに隠せなかったけど。
「何かが起こっているのかもしれないね」
と俺はうなずく。
結界と影の魔法を使っていた魔族の少女はかなり手ごわそうだった。
前世でも魔族は手ごわい相手が多くて、勇者や賢者といった雲の上の存在が対応に追われていた。
前世の俺には関係がなかったけど、今回は違う。
アデルや王女殿下が標的になるなら、知らんぷりなんてできない。
「アデル様のことと言い、魔族がふたたび暗躍をはじめたのでしょうか」
とシリルが憂いを口にする。
実のところ彼女に考えに俺も賛成だった。
なぜレーナ・フィリス殿下やアデルを狙うのかまではわからないけど、どうせろくでもない理由だろう。
前世において魔族の目的は愉悦。
人里を破壊し、人間を混乱させるのが、彼らにとって何よりも楽しい最高の娯楽であり、生きがいだったらしい。
今回も似たような理由だというのは大いに考えられる。
というかあいつらに別の目的が生まれるなんて、ちょっと想像できない。
「大賢者様が遺した言葉によると、『魔族は破壊と混乱を好む。とくに若い女性の悲鳴が好き』らしいのよね」
アデルが整った顔を不愉快そうにしかめた。
近くにひかえている使用人たちも、とくに女性たちはいやそうである。
……大賢者様の言葉があるのか。
あの方は前世の俺が知っている範囲では最も魔族のせいで面倒な思いをしたと言える。
警句を後世に向けて遺したとしても納得できた。
だけど、それじゃ説明が足りない気がする。
「若い女性を狙うなら、レーナ・フィリス殿下じゃなくてもいいんだよね。いやな話だけど、平民の女の子のほうが成功しやすいだろう」
と俺は指摘した。
平民なら護衛はつかないし、ひとりになるタイミングはいくらでもあるはずだ。
それに貴族女性と違って護身の心得を持ってる人はすくないだろう。
魔族はそんなこともわからないほどバカじゃない──バカじゃないところがあいつらの厄介な点のひとつだ。
現に殿下を狙った魔族はこの国の三大戦力について調べてあったように。
「そうなのよね。うちの家だって護衛戦力がいるし、殿下の護衛には騎士がつくものね。……どうしてかしら?」
アデルを筆頭にみんなが考え込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます