第67話「説明と褒美」
俺たちと別れたあと、殿下たちは大きな通り道を歩いていたという。
「人通りが多い場所のほうが安全なのよ。不意打ちされるリスクはあるけども」
と殿下が俺に説明する。
人ごみにまぎれて暗殺者が襲ってくるのでは? という疑問を読まれたらしい。
「すぐに助けが呼ばれますから……もちろん場合にもよりますが」
シリルがつけ加える。
目的さえ達成できれば自分たちの命はいらないタイプだと、通じない可能性はありそうだよな。
「そこで急に人通りがなくなったと思いきや、結界が展開されて例の魔族が襲ってきたのです。シリルたちがいなければさらわれるか、殺されるかしていたと思います」
と殿下はまるで他人事のように話す。
事実、シリルたちが巧みに魔族の攻撃を防いでるところは俺も見た。
ふたりがかりじゃなかったらやばかった気がするが、言う必要がないことだ。
「そうか」
陛下の視線が改めてシリルたちに向けられる。
彼女たちの体にはまだ傷が残っていた。
「よくぞわが娘を守り切ってくれた。礼を言う」
と陛下は言う。
「めっそうもございません」
「常日ごろ、王家より恩寵をたまわっている身なれば」
シリルたちはあわてて答える。
彼女たちの立場なら命がけで殿下を守り切ったことこそ、王家への恩返しとなるんだろうな。
まあ形式なんだろうし、しかも貴族たちにとっては大事なやつだ。
「そなたもな、ユーグよ。アガット侯はとても見る目があったということだな。余としても見習わねばならんか」
と陛下は俺とアガット侯爵を同時に褒める。
「恐れ入ります」
これはアガット侯爵にとっては最上の名誉だろうな。
本人が不在でもこの際は関係ない。
「実はユーグを近衛騎士として採用して鍛えるという案は出ておる」
と陛下が言う。
「だが、それではアガット侯の娘、アデルといったか。その者からそなたを取り上げることになるのはまずい」
「父上」
殿下が何か言おうとしたのを、陛下は目で制止する。
「だからアデルをお前の側近に取り立てるという配慮が必要だ」
「父上!」
陛下の次の発言で、殿下が一転して歓喜の笑みを浮かべた。
「もちろんアガット侯との協議が必須になる。アガット侯は建国以来王家に仕え続けている名臣の系譜。無下にはできぬ」
と陛下は言った。
つまりお屋形様が認めたら、俺とアデルはずっと殿下と一緒になるのか?
……アデルは反対しそうにないし、お屋形様も認めそうだなあ。
ふたりがかまわないなら、俺に異論はない。
世界最強になるためのステップ、王家の威光を借りられるならそっちのほうが捗るはずだから。
「はい」
と殿下も素直にうなずく。
アガット侯爵の名前は王族にとっても重いようだった。
「それにしても魔族か……たしかアガット侯の屋敷も狙われたのだったな」
陛下の視線がこっちに向く。
「御意」
小さくうなずき、短く返事する。
「魔族が何やらたくらみをもって動きはじめたという可能性が出てきたな。わが娘にアデルと貴族の娘が連続してとなると、偶然とは考えづらい」
これはひとりごとのようだった。
「いずれにせよ大儀である。褒美はここにある。受け取ってくれ」
と陛下が言うと、侍従のひとりが大きな革袋を入っている。
中身をここでたしかめるなんてできず、
「ありがとうございます。恐悦に存じます」
と答えて受け取った。
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