第66話「歓待と書いて事情聴取と読むやつ」

 俺が通されたのは小さな部屋で、すぐに近衛騎士に守られた陛下がやってくる。

 五十近いはずなのに若々しい容貌の男性だ。


「急ぎで非公式な場なので、あいさつは不要だ。何分王女が襲撃されたとは、現段階では言えぬのでな」


 と陛下は早口で言う。

 それにうなずきレーナ・フィリス殿下が口を開く。


「ええ。ただ彼については褒美をお願いします、父上」


 非公式だと言われたからか、彼女の口調はアデルや俺に向けるのと同様、気安い調子だった。


「わかっておる。だから来たのだ」


 と陛下は答えてじっと俺を見る。


「そなたがアガット侯爵家を襲った魔族を倒し、娘からも魔族を守ったユーグ・デュノだな」


「御意」


 いくら目上の人間が気安い調子でも、下っ端な俺までが同じことをできない。

 改めて許可が出るまで堅苦しいくらいでちょうどいいのだ。


「ふむ。ネフライトからも報告を受けておる。そなたならわが娘を守り通すこともできよう」


 と言われて、意外と高く評価されてたことに驚く。

 実際に目で見るまで信じないってスタンスの人もすくなくないのに。


「身にあまるお言葉、光栄に存じます」


 と礼をもって答える。


「礼儀作法も悪くない」


「アガット侯爵家の薫陶のたまものです」


 陛下の言葉にへりくだり続けた。


「もう、父上。そのへんでいいでしょう」


 とレーナ・フィリス殿下が抗議するように言う。


「はは、そうはいかんよ。君臣の礼を守らないと、彼のためにならん」


 陛下は娘の言葉に苦笑する。

 意外と砕けたところもあるらしいが、俺は表情をとりつくろう。


「若いのに感心だな」


 陛下はそれを見て目を丸くする。


「そうでしょう。アデルには悪いけど、近衛に取り立てたいのよ」


「それは難しいぞ」


 殿下のとんでも発言に陛下は渋面になった。

 近衛騎士たちはポーカーフェイスを崩さず、ぴくりとも反応しないからすごい。


「アガット侯爵家ともめる要因になりかねん。いま地方領主との間に火種を抱えるわけにはいかん」


 と陛下は答える。

 俺はアガット侯爵家の子飼いの郎党だ。


 それが近衛騎士になるのは王家の引き抜き工作だと解釈される可能性はある。


 王家の権力は強大だけど、絶対じゃない。

 地方領主が団結して決起すれば王権をひっくり返すことは可能だろう。


 だからアメとムチを使い分け、団結して反抗してこないように注意を払うのが王家の政治となる。


「いえ、近衛騎士としての経験を積めばユーグに貴族として箔がつくでしょう。手柄を立てる機会も増えるかと存じます」


 殿下は笑顔で自分の意図を明かす。


「ふむ、つまり彼とアデル嬢の関係を王家が後押しするわけか。それならありだな」


 陛下は彼女のアイデアを聞いて、前向きな反応を示した。

 俺が貧乏騎士出身という理由で、快く思わない勢力はまだまだ多い。


 それを払しょくしアガット侯爵家は先見の明があったと、王家が後押しするとなるとアデルは大喜びだろうなあ。


 お屋形様にしても反対する理由があるとは思えない。

 

「検討の価値があるアイデアだ」


 陛下はそれでも即答は避ける。


 まあ近衛騎士って常時王族の近くにひかえて護衛する立場だから、こんな内輪の内緒話やその場のノリみたいな感じで、採用を決めるわけにはいかないだろう。


「それでは本題に入ろう。レーナ、何があったのか話してくれ」


 と陛下は表情を引き締めて言った。

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