第38話「大賢者のアイテムハンパない」
魔法を全部で七発撃ち終えると、夢魔は死亡して黒い結晶を残して肉体は消滅する。
魔族が死後に残す【魔結晶】だ。
魔族は死んだら全部こうなるんだよなと思いながら、まずはアデル様たちの拘束をほどく。
「おふたりともご無事ですか?」
「ええ。何だか元気を吸われたみたいだけど、それだけ」
さらわれてから何日も経過しているのに、アデル様はいつもの笑みを向ける。
「それにしても救出に来たのはあなただけなの?」
アデル様が怪訝そうに聞いた時、足音が聞こえてきた。
とっさに彼女は俺の背中に隠れ、ノエミさんが彼女をかばう位置に移動する。
「無茶では?」
俺は小声でノエミさんに言った。
夢魔にとらわれて精気を奪われていたのなら、とてもじゃないが戦える状態じゃないだろう。
「アデル様の盾代わりに使ってください」
言葉に力が足りないものの、込められた意思はかなり強い。
「たぶん大丈夫ですよ。足音的にボネさんです」
音を殺さずに歩いているのは、囮をやるという役割をこなしているからだろう。
「ボネが?」
アデル様が声を出すと同時に、ボネが右奥から姿を見せる。
「話し声がするのでもしやと思ったけど、すでにユーグがおふたりを救出したのか。囮の役目を果たせなかったな」
彼はため息をついてから自嘲した。
「いや、俺ひとりでふたりを守りながら帰還するのはキツイですよ。ボネ班長が頼りです」
アデル様ひとりだけだったら何とかなるかもしれないけど、それはそれで気まずい状況になりそうだし。
「そのことなんだが、帰還用のマジックアイテムをあずかっているんだ」
「え?」
言いづらそうなボネの顔をぽかんと見つめる。
ま、まさかと思うけど、大賢者様が「一番難しい」と言っていたといううわさの、あのアイテム?
ボネはポーチから黒いリングを取り出す。
「ツインムーブリングね」
とアデル様が言った。
そうそう、そんな感じの名前だったな。
「ユーグは知らないだろうから説明しようか」
とボネに言われる。
十二歳の貧乏騎士の次男が知っているのはおかしいので、小さくうなずいた。
「この輪をはめることで、対となる輪がある位置へ転移できるんだ。制限はあるけどいまは省略しよう」
まあアデル様をお屋敷に連れ帰るのが大事な任務だもんな。
「そうですね」
と答えてから俺は【魔結晶】を拾った。
「これ、倒した魔族が落としたやつです」
ボネに手渡しておく。
「そうか。ユーグがひとりで倒してしまったのか」
彼は何だか複雑そうな表情だった。
「そうそう、とてもカッコよかったわ」
アデル様がはしゃぐように声を立てて褒めてくれる。
こんなに可愛い女の子からカッコいいと言われると、ドキッとしてしまうな。
俺たちはそれぞれ簿名から渡された黒いリングを受け取り、それを左手首にはめる。
「リング・オン!」
ボネが叫ぶと黒いリングがうっすらと光を放ち、次の瞬間俺たちはお屋敷の庭へと転移していた。
は、初めて経験した転移だけど、高速移動タイプの絶叫系マシーンに脳を揺さぶられたような感覚で、だいぶ気持ちが悪い。
「うう、何だか頭がくらくらする」
近くでアデル様とノエミさんも顔をしかめている。
「おお! アデル様がお戻りだ!!」
俺たちに気づいたらしい郎党が大きな声をあげた。
仕方ないけどノエミさんは無視される形になってしまう。
あっという間に話は広まり、お屋敷の中から人が出てくる。
急いでやってきたお屋形様と奥方様の目にはうっすらと涙がにじんでいた。
もしかしたら子どものひとりくらいなんていう、貴族らしいシビアな考えの持ち主じゃないかと思っていたけど、おふたりは違うようだ。
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