第39話「婚約者(候補)ができました」
「ユーグがとっても頑張ってくれたんです、お父様! 手厚く報いてください」
「わかっている」
アデル様は奥方様に抱きしめられながら、お屋形様にお願いしている。
お屋形様のほうはと言うと彼女の言葉にうなずいたあと、ボネから報告を聞いていた。
それが終わると視線を俺に向ける。
「ユーグ、【魔結晶】を見せてくれないか」
「はい」
俺が差し出すと軍官が驚きをあらわにした。
「これはすごい。おそらく2級相当です。襲ってきた魔族は少女みたいな外見でしたが、おそろしい強さを持っていたと思われます」
「そんな魔族をひとりで倒したか」
軍官の発言を聞いたお屋形様は何やら考え込む。
アデル様とノエミさんが目撃者なので、信じてもらえないってことはないと思うけど。
次にどんなことを言うのかわからなくて、すこし緊張する。
「私の権限でユーグに男爵位を与え、アデルの婚約者候補とする」
お屋形様の宣言に俺はぎょっとして、失礼ながらその顔を見つめた。
どうやら本気らしいと感じたとき、最初にアデル様が歓声をあげる。
「わぁ! お父様、ありがとうございます!」
彼女は言ってから俺に抱き着いてきて、頬にキスをした。
「アデル様!?」
郎党たちは騒いでいるようだが、俺は事態の展開についていけずぽかんとする。
かろうじて理解できたのは、左頬にやわらかい唇の感触があったということだ。
「頬になら、まだ婚約成立では」
「そ、そうだな」
郎党たちの動揺は激しいが、俺だって似たようなものだ。
「アデル」
お屋形様が声をあげる。
さすがにはしたないと叱られるんだろうな。
「彼と結ばれたいなら、きちんと手順通りにしなさい」
えっ? 反対しないの?
びっくりしていると、奥方様も口を開く。
「そうよ。彼は騎士の息子だから、正しく手順を踏まないとあなたの願いはかなわないわよ」
奥方様も反対しているというよりは、助言するような言い方だ。
「自分は騎士の息子なので、侯爵家のお姫様とは釣り合いがとれないと思いますが」
おそるおそる主張する。
厳格な身分差ってやつがあるはずなんだが。
「たしかに身分の差はあるが、能力ある者を引き立てないほど不寛容ではない」
お屋形様はきっぱりと言う。
「もちろん、わが家よりももっといい条件を出す家を探したいなら、君には断る権利があるのだが」
そんな言い方するのやめてくれ!
譲歩しているように見せかけた包囲網だろ!
「まさか、そんなことはありません」
俺に他の答えを言う選択肢は用意されていない。
これが貴族社会のこわさってやつだと思い出す。
もちろん本気で逃げようと思えば逃げられるけど、逃げるメリットもいまはない。
「そうよね! わたし、好きになった殿方には尽くすタイプよ?」
とアデル様は言って俺の両手を握る。
心なしかその美しい瞳はうるんでいた。
「これからもよろしくね?」
「は、はい」
彼女の美貌と魅力にクラっと来てしまい、ほとんど条件反射でうなずく。
「決まったな。とは言えユーグも懸念した通り、男爵ではアデルとは釣り合いがとれない。最低でもユーグには伯爵を目指してもらうことになる」
とお屋形様が何事もなかったかのように言う。
どうせ世界最強を目指すことを考えればちょうどいい目標だ。
王国のように能力があれば爵位をあげてくれる国で伯爵にもなれないでいて、どうして世界最強になれるだろうか。
「頑張ります」
「もちろんわたしも手助けするわ。ダーリンのためだから」
アデル様は熱を込めて言うが、ダーリンって何だろう?
どことなく古くさい表現なのは気のせいだろうか。
いや、年頃の美少女にそんな失礼なことは言えないな。
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お読みいただきありがとうございます。
これで第一章終わりです。
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