第35話「アイソレーションスリーパー」
俺とボネはお屋敷の一室へ通されると、メイドたちが黒い寝袋を持ってきてくれる。
「これはマジックアイテムで、【アイソレーションスリーパー】という。回復をすごく高めてくれるんだ」
「へえ」
俺が驚いたのは初めて見るアイテムだからじゃなくて、前世だと一部の資産家しか持てない超高級品だったからだ。
正確に言うと名前は知っていたんだけど、現物を見るのは初めてだ。
普及品になったのか、侯爵家だから保有しているのか。
わからないけどとりあえずお世話になろう。
「三十分ほど眠ればポーション三本分くらいは回復できるんだ」
ボネは使ったことがあるような口ぶりだった。
「それはすごいアイテムですね」
と答えながら寝袋の中に入って横になる。
「寝ても寝なくても効果があるというのが、このアイテムの優れているところさ」
「それはハンパなくすごいです」
思っていた以上にアイテムの性能がよく、俺の語彙力がおかしくなった。
そんなすごいアイテムが貸し出されたのは、アデル様救出のためだろう。
期待の大きさをひしひしと感じる。
「うん。アデル様とノエミ、必ず助けよう」
「はい」
ボネの決意に同意した。
ふたりとも無事でいるといいな。
殺害せずさらったくらいだから、おそらく無事だと思う。
ただ、魔族の思考回路は人間では測れない部分があるので、楽観はできない。
お屋形様は冷静なように見えたけど、本当は心配なんだろうなと思いながら目を閉じる。
そして気づいたら意識を失っていて、肩を揺さぶられてハッとした。
「よく寝ていたな」
ボネが笑いながら話しかけてくる。
「やっぱり疲れていたんじゃないか?」
「そうかもしれません」
言われてみればあんあにガンガン魔力を使ったのは、ユーグとしての人生がはじまってから、初めてのことだったな。
自覚できないレベルで体は疲れがたまっていたのかもしれない。
「うん。まだバランスとか、どれくらい力を使うとどれくらい疲労がたまるのか、把握できていないんだな。こういうのは慣れが大事だからな」
とボネに言われてしまう。
経験はあるつもりだったけど、この十二歳の体に慣れていないのはおそらく事実だ。
意識していたつもりはないが、だからこそ前世の感覚で戦ってしまったのだろう。
経験を積んだ大人なら平気でも、十二歳には無理があったということか。
ぶっ倒れる前に気づけただけラッキーだったと受け止めよう。
「体はすっきりしただろう?」
「ええ。軽いですし、魔力もすっかり戻っています」
と答えて俺は笑った。
これなら魔族相手でも戦うことは可能だろう。
問題はこの時代に存在している魔族がどれくらい強いかだ。
前世だとレベル80以上の英雄じゃないと勝ち目がない、おそらく強い個体がいた。
そのレベルの敵が出てきたら俺たちじゃどうにもならない。
もっともそんな強い個体が、貴族令嬢をさらうなんて小物っぽいまねをするとは思えない。
ただまあ、さっきも考えたばかりだけど魔族の思考回路なんてわかるはずがないからなあ……。
ふと思いついてボネに問いかける。
「ボネさん、魔族ってどれくらい強いかわかりますか?」
魔族が存在していること自体に驚いた節はなかったので、そこに一抹の望みをかけたのだ。
「わからない。強い魔族は勇者様や賢者様に倒されたと聞いてるんだが」
「侯爵領では出たことはないのですね?」
ボネの回答を聞いて、さらに質問をする。
「そうだ。だが、王国騎士団の精鋭数人が倒したこともあるそうだから、俺とお前さんならアデル様を救出するくらいはできるだろう」
ボネは俺が不安になっていると思ったのか、安心させるような笑みを浮かべた。
やむを得ないとは思うけど、ノエミさんもできるだけ助けたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます