第33話「前世と比べて改善されたこと」

「ユーグのおかげで全然消耗しなかったから、こうしてわりとすぐに追いつけたんですよ」


 と探知係のガルが言う。


「それはよかったが、ユーグの評価をもっと上に修正しなければいけないな」


 ボネは真剣な顔で答える。


「ユーグってかなり特別あつかいされていると思っていたが、まだ足りなかったんだな」


「マジで神童ってやつか」


 みんな口々に褒めてくれるので、内心にっこりだ。

 着実に評価を高めて侯爵家での地位を高めていこう。


「どれくらい余力が残っているんだ?」


 とボネに問われる。

 

「三割弱、といったところでしょうか」


 俺はすこし考えてから答えた。


「七割の力であれを切り抜けたというのか」


 ボネがみはった。


「上方修正どころではないな」


 彼の声には畏怖の響きがある気がする。


「ユーグがすごすぎてやばい」


「ユーグ、やばすぎてすごい」


 他の先輩たちはちょっと何を言っているのかわからない。

 あいまいな笑みを浮かべてスルーしよう。


「とにかくすこし休んでくれ。あとポーションを飲んで魔力の回復を」

 

 とボネが言うとファシュが紫色の液体が入ったビンをくれる。

 これがこの時代のポーションか。


 ぐいっと飲んでみたら味はけっこうよくて、薄いジュースみたいだった。

 かなり改善されたんだな。


 昔のポーションなんて、薬の苦みだけを集めたような味だったのに。

 ポーション作成者の頑張りが目に浮かぶようで、とてもありがたい。


「美味しいですね、これ」


 と口に出したらみんなが微笑む。


「昔はまずかったらしいぞ」


「効果をそのままに、味を改善するってけっこうな難題だったみたいなんだ」


 先輩たちの言葉で昔をなつかしく感じる。


 大丈夫かなと一瞬不安になったものの、すぐに何人かは談笑しながらもさりげなく周囲を警戒していると気づいた。


 経験豊富なベテランとなるとリラックスしながら警戒するっていう、矛盾してそうな行動を両立させることができる。


 前世でもそうだったし、彼らだってそうなんだろう。

 俺も見習えるようになろう。


 いい手本が目の前に存在しているのは幸せだ。

 最強を目指すならなおさら。


「ユーグ、ちゃんと休めよ?」


 ボネがこっちを見ていたわってくれる。


「そうそう、いまのところ一番働いてるのはユーグなんだから」


「ボネ班長、やむを得ないけどまだ一度も戦ってないもんなあ」


 和気あいあいとした空気で、ボネをからかう余裕すらあった。

 彼らは侯爵家に何かが起こっていると気づいていないわけじゃない。


 気づいているからこその平常心を保っているのだ。


 前世で言うところの王国騎士団とか、そういう精鋭ぞろいの組織をほうふつさせる。


 ……単純なレベルで言えば前世よりも低いと思うんだけど、こういう意識の部分は同じなんだな。


 前世と変わったものもあるし、変わらないものもある。

 

「ユーグさえよければそろそろ出発したいが」


 とボネがこっちを見て言った。


「大丈夫ですよ、ポーションのおかげで三割くらいは回復しましたし」


 もらったポーションはなかなか効果がよく、使える魔法が十五回分ほど戻ったのだ。


 ここも昔と比べて進歩してる部分だろう。


 昔のやつはハイグレードポーションか、著名な専門家のオリジナルポーションでもないと一気に三割以上も回復できなかったもんな。


「うん、大した効果で僕たちにはありがたいよね」


 とファシュが言う。


「よし、じゃあ出発だ。他の班も戻ってきているだろうが、それでも急ぐほうがいいだろう」


 ボネが手を叩くと俺を含めて座っていた全員が立ちあがる。

 戻るのは早いほうがいいという考えには賛成だ。

 

 ボネと俺っていう有益な戦力がふたりいるこの班は特に。

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