第32話「どうせ面倒なら」
「十五回くらい残っているから、休まずにボネ班長たちを追いかけたほうがいいと思うのですが」
と提案するとふたりから信じられないものを見る目を向けられてしまう。
「いや、休んだほうがいいだろう」
「そうだ。かなり魔力、体力、精神量を消耗しているはずだ」
ボネともうひとりの人が血相を変えて説得してくる。
だが、俺が言っているのは何も無謀なことじゃない。
「正直に言うと、三人だけでいるよりもボネ班長たちになるべく早く合流したほうが、安全じゃないかという気がしてるんです」
とふたりに言う。
悪いけど魔力を使い切りたくない俺だと、戦力としては不安が残る。
探知係と防御係だけで敵を倒せるかという点でも心配だろう。
「それはそうだと思うけど」
「ユーグの消耗が大きいとなると、な」
ふたりは迷いはじめたようだった。
「いまから合流するまでなら持ちますが、このあとさらに消耗する出来事があったら無理になるかなと」
と俺は主張する。
これでモンスターが終わったならいいのだが、他に何かあったらもたない。
それに戦力も不足しているだろう。
ボネたちがそこまで考えていたのかわからないが、ファシュたちは気づいていそうにないので指摘する。
「そ、そうだね」
「これ以上のことはないと思いたいが……合流を目指すか」
ふたりの説得に成功し、俺たちは先を急いでいるボネたちを追いかけることになった。
三人同時に走り出したところ、《風の祝福》を発動させた俺が先頭に出る。
「す、すごい」
「恐ろしいくらいタフだな」
ふたりの驚きが後ろから聞こえてきたところで、速度を落として彼らを待つ。
後衛の俺が先頭を走ってどうするって話だからね。
「ごめんね」
とファシュがまず謝り、
「俺ら完全に足手まといだな」
と探知係が自嘲するように言う。
「いえ、俺ひとりじゃ思い切りよく戦えないので、ふたりはありがたいですよ」
と答えた。
これは社交辞令じゃなくて事実だ。
サポートしてくれる仲間がいるかどうかって魔法使いには重要だから。
「先輩を立てることを知っているんだね」
「本当にユーグは十二歳なのか?」
ファシュは恐縮していたが、もうひとりには疑念を持たれてしまった。
如才なく立ち回らないと貴族社会はしんどいはずだが、如才なく立ち回ると変な疑いが生まれるらしい。
いまの時代の人間たちも面倒か。
やっぱり力をつけてお金や権力を手に入れないとだめかもしれない。
どうせ面倒なら相手が譲歩してくれる立ち位置を目指したほうが、まだましだもんな。
とりあえず世界最強を目指すのは間違ってなさそう。
世界最強になれたらやっぱりマシだろう。
すくなくとも貴族に支配されている平民よりは。
「十二歳ですよ」
「傑物は出てくるもんだな。ボネ班長もそうだったらしいが」
俺の問いに探知係の人が言う。
まああの人だって強いもんな。
俺たちは走り続けていたら、やがて前方で見覚えのある五人の姿が見えてくる。
「意外と早く追いつけましたね」
「あの人たちはちゃんと休憩入れてたと思うよ」
俺が驚くとファシュが苦笑して答えた。
「俺らが合流するのを待ってたんだろうし、あるいは俺らがダメだったら次の手を考えなきゃいけなかったわけだからな」
たしかに俺たちが死んで、モンスターたちを止められなかった場合のこと、ボネは考えなきゃいけなかったね。
「こんなに早く戻ってきたのか」
俺たちに気づいていたらしいボネたちは立ち止まって、合流させてくれた。
ただ、その顔には驚愕が濃い。
「ユーグがひとりで全部倒してくれて、そのまま急いで来たんです」
とファシュが報告する。
「俺らがやったことは警戒とけん制くらいですね」
と探知係の人も言う。
「ガルはともかくファシュの出番もなかったというのか」
ボネは信じらないという顔で俺を見る。
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