第31話「1対500」

「《風の息吹》」


 まずは空に舞い上がって有利な状況を作る。

 そして距離を詰めていく。


 ここが森林の中だったり、民家があったら戦い方が制限されることになって厄介だった。


 しかし、今は開けた平地だからかなり戦いやすい。


「《水流弾》《風の矢》」


 そして水の弾丸をばらまき、風の矢でそれを加速させる。

 風の矢は使うタイミング次第で、他の攻撃魔法の支援になるのだった。


「《火の矢》《風の矢》」


 さらに火の矢も風に乗せて拡散させる。

 前を行進していたモンスターたちは悲鳴をあげて倒れていく。


 こっちに気づいたところで、彼らは立ち止まって反転しようとするが、数が数だけに混乱が生まれている。


 敵の攻撃にさらされながら方向転換なんて、統率された軍隊だって簡単じゃないもんな。


 統率なんてされていないし、指揮官だっていないモンスターの群れだとこんなごちゃごちゃになるんだなと思いながら、俺は攻撃の手をゆるめない。


「《火の矢》」


 コボルト、オーク、スクワールのいずれも火に弱いモンスターたちだから、火の矢を主軸に据えて攻め立てる。


 そのうちオークやコボルトが石を拾って投げてきたが、俺まで届いていない。

 このために空の上で戦うことを選んだのだ。


「数が多すぎるのがすこし不安だけど」


 まだ三十回以上魔法を使うことができる。

 強いモンスターが一体もいないなら何とかなるだろう。


 地面に火がついたので、そこを風で煽って巻き込めば魔力の節約にもつながる。

 燃えたらまずいものがあるエリアだと絶対に使えない戦術だ。


「お、おい」


「もしかして僕らいらないんじゃ?」


 離れたところからファシュたちの声が聞こえてくる。


 覚悟を決めていたところ悪いけど、100を超すモンスターを彼らが何とかできるとは思えなかったのだ。


「《火の矢》《風の矢》」


 モンスターの群れたちの四方を火で囲むように魔法をばらまき、逃げ道をふさぐ。


 残酷かもしれないけど、彼らがどこに向かってどんな悪影響を周囲におよぼすのか、とても読み切れない。


 侯爵領内の異常がここだけならいいが、そうでないならこの集団への対応をするための人手を確保できるかわからない。


 俺たちの明日のために、ここで全滅してくれということだ。

 残酷かもしれないが、モンスターたちも人間に対して残酷なことを平気でする。


 人間がしてはいけないということはないはずだ。


「す、すごい」


「信じられない」


 ファシュたちは驚愕している。


 もしかして戦い方次第ではモンスターの群れをこうして封殺するって、いまの時代だと一般的じゃなかったりするのか?

 

 時間がたったら戦い方は変わったりするもんな。

 何とかすべてのモンスターを倒せたので、続けて大事な作業をはじめよう。


 言うまでもなく消火活動で、このために《水流弾》を使うための魔力を残しておきたかったのだ。


「すみません、水属性魔法を使えませんか!?」


 ひとりだと時間がかかってしまうので、俺はファシュたちに呼びかける。

 三人がかりでやるのが一番だと思うけど、ひとりでもいてくれた大助かりだ。


「ごめん、俺たちは使えないんだ」


「役に立てなくて申し訳ない」


 ふたりはそれぞれ謝罪してくる。

 探知系と防御系だからひょっとしたらとは思っていたけど。


「俺が頑張るしかないのか」


 火が消えないと大惨事になりかねないからな。

 意気込むとふたりは心配そうに叫ぶ。


「魔力はまだ大丈夫なのか!?」


「ずいぶんと使っているだろう!?」


 彼らの言いたいことはわかる。


「あと十五回くらいでしょうか」


「え、そんなに!?」


「どれだけの魔力量だというんだ!?」


 俺が答えるとふたりは驚愕していた。

 そう言えばこの世界の人たちって、何回くらい魔法を使えるんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る