第27話「強敵と戦う役目」

「よしじゃあ、奥に進もう」


 ボネの指示で俺たちは進んでいく。


「何か来る。数は五十ほどだ」


 しばらく歩いたところで探知担当のひとりがそう警告を放つ。


「五十だと?」


 ボネがいやな顔をしたが、無理もない。

 森林の中は狭くて何人も同時に戦うことが難しい。


「どうする、班長? スイッチシステムを使うか?」


 スイッチシステム……少人数を何組かに分けて、交代で戦うシステムだな。

 八人なら比較的スムーズに運用できるだろう。


 今日初めて参加する俺がいなければの話だけど。


「ああ。俺とユーグは参加しない。六人を二組にわけてやってくれ。群れるタイプなら、お前たちだけでいけるはずだ」


 とボネが指示を出す。

 

「なるほど。このあとに本命がいるってことか?」


 聞いたメンツはそう判断する。

 俺も彼らと同意見だ。


 つまり俺とボネはザコ戦では力を温存し、事態の原因となってそうな存在に備えるのだ。


「ああ。いまのところ動物たちが外に逃げ出すような災害は、感知できていないんだろう?」


 ボネが探知担当のふたりを見る。


「ええ。火事や湖の氾濫はありえません。洞窟が崩れた程度ならあるかもしれませんが、それだとフォレスクマは森林の外には出ないでしょう」


 彼らは自信を持って断言した。


「そういうことだな」


 まるで確認作業のようなやりとりだったが、この班の認識を統一するためには必要な工程なんだろうな。


「来ました。あれはコボルトですね」


 と探知担当のひとりが言う。


「コボルトくらいならたしかに班長はいらないな」


 彼らは楽観的に言ったが、その目に油断はない。

 五十ものコボルトが押し寄せてきたが、彼らだって同時に戦うわけにはいかないのだ。


 結果、少数同士の戦闘をくり返すことになり、こちらが圧倒的に優位になる。


 だけど、コボルトたちは一方的に同種がやられているのにもかかわらず、退却しようとはしない。


「コボルトって勝てないと思ったら、すぐに逃げるモンスターじゃありませんでした?」


 隣に立つボネに疑問を投げかける。

 知らない間に種としての性質に変化があったんだろうか。


「その情報はあってる。つまり俺たちと戦うほうがまだマシ、生き残れる可能性があると思っているのだろう」


 ボネは表情をけわしくしながら答える。

 やっぱりそうなるのか。


 情報が増えているけど、新しいものはないと言っていいからじれったい。

 どうせならどんな存在がいるのか、わかればいいんだが。


「あせらないことだ」


 とボネが俺の内心を見透かしたように言う。


「はい」


 たしかにあせっても何もいいことはない。

 無駄に傷を負ったり体力を消耗するのは避けなきゃだし。


 こういうのは経験の妙ってやつだろう。

 三周目の人生で俺はようやく経験を積めるので、素直に彼らを手本にしよう。


 激戦というわけではなかったが、それなりに削られた戦いが終わった。


「残念な知らせをする必要がある。数は一だけだが、気配が強い」


 と探知役の人が告げる。

 フォレスクマのときは言わなかった「気配が強い」か。


 俺だけじゃなくてボネも同じ考えだったらしく、視線が合う。


「俺がやりましょうか?」


 ボネは指揮官の上にお屋敷への連絡係でもあるので、彼が行動不能になるのは可能なかぎり避けたい。


 つまり強敵と戦うのは俺しかいないことになる。


「理解が早くて助かる。俺はまだ戦うわけにはいかないんだ」


 ボネは安心半分、くやしさ半分という面持ちで答えた。


 いま彼が倒れたらこの班どころか、アガット侯爵家全体の危機につながる可能性すらあるもんな。


「がんばります」


 と言った。


「き、来た!」

 

 直後に木々が音を立てて倒れて、一体のデカい人型の異形が現れる。

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