第28話「オーガと戦う利口な戦法」

 身長は二メートルくらいあり、丸太よりも太い腕を持ち、黒い皮膚からはいやなにおいが漂っている。


 顔は醜い鬼で、小鬼のゴブリンを大人にして貫録を与えたような存在と言うべきだろうか。


「オーガか」


 とボネが嫌悪を込めて言う。

 オーガは鬼種のひとつで、巨岩や馬を片手で持ち上げるほどの腕力を持つ。


 さらに頑丈そうな見た目通り打たれ強い。


 スピードこそないが、他はフォレスクマの上位互換と言ってもさしつかえないがだろう。


 たしかに強いんだけど、こいつがいるからってフォレスクマが森林の外に逃げ出すだろうか?


「こいつ以外にも何かいると思ったほうがいいだろうな」


 同じことを考えたらしいボネが、俺にそう言った。


「ここで力を使い果たすわけにはいきませんね」


 彼が俺に言いたかっただろうことをを先回りする。

 

「すまないが頼む」


 と言うボネにうなずいて前に出た。


 オーガはらんらんと輝く紫色の瞳で俺の姿をとらえ、にたりと獰猛な笑みを浮かべる。


 凶悪な鬼族からすれば人間の子どもなんて、玩具かエサにしか思えないだろう。

 オーガは強いけど知能も警戒心も高くない種で、そこが狙いどころでもある。


 と言ってもこっちも火と雷は使えないんだけど。


「《水流弾》」


 まずは水の弾丸を浴びせて先手をとる。

 低いうめき声が聞こえてオーガはよろめいたが、これだけじゃ倒せない。


 体制を立て直しながらぎろっとこっちをにらんできたので、その隙に次の魔法を使う。


「《風の加護》」


 自分に魔法をかけて空に浮かび、オーガの頭上を抑える。


 これが知能の高い敵だったら俺を無視し、他の仲間に襲い掛かるというリスクがあった。


 知能が高くなく、一度標的とみなした相手に執着するオーガ相手だからできる選択肢である。


「ガアア!」


 オーガは雄たけびをあげて太い右腕をふり回す。

 すごい風圧だ。


 俺だとかすっただけでも死にそうな剛腕だが、届かなければなんてことはない。

 ここから一方的に攻撃させてもらおう。


「《水流弾》」


 オーガの頭部に命中する。


「《水流弾》」


 次の弾丸は右肩を中心に命中した。

 

「ガアアアア!」


 削れてはいるけど、オーガはやはりタフだな。

 いまの俺が使える魔法だけだと時間はかかりそうだ。


 身体強化をして殴ったほうが早いかもしれないけど、オーガ相手だと事故が怖い。

 そこまで接近戦スキルに自信がないので、遠距離戦に徹したほうが利口だろう。


 観察するとやたらめっぽう腕をふり回しているしな。


「《水流弾》」


 何回目かわからない魔法が、とうとう頑丈なオーガの皮膚を貫いて、赤黒い血しぶきが舞う。


 オーガは苦悶の声をあげながら絶命し、巨体は地面に崩れ落ちた。


「ふー」


 大きく息を吐き出しながらゆっくりと着地すると、仲間たちが寄ってくる。


「すごかったな!」


「なんだあの戦法!?」


「オーガに何もさせないなんて、信じられないよ!」


 みんな興奮していて、早口でまくし立てられた。

 おかげで誰が何を言っているのかよくわからない状態になっている。


「自分で考えたのか?」


 ボネが興味深そうに聞いた。

 これは俺が考えた戦法じゃなくて、前世では定番と言われてたんだけどなあ。


 しかし、本当のことを言ったらかえって混乱させるだけだろう。

 あるいは信じてもらえず頭の心配をされるか。


「ええ、まあ。俺はオーガに殴られたら死んじゃうので」

 

 だから工夫が必要だと思ったと主張する。


「そうか、見事なものだな」


 ボネに感心されたけど、罪悪感で胃がすこし痛い。


「魔法を連発していたが、消耗していないか? まだ余裕はあるのか?」


 《水流弾》十発に《風の加護》だったからな……。


「あと四十回くらいは使えると思いますけど」


 敵によっては心もとないかもしれない。


「そ、そうか。魔力保有量もすごいんだな」


 ボネは圧倒されたような顔になる。

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