第21話「スケジュール(予定)」
食事が終わってアデル様の部屋の前に行くと、軽鎧を着た若い女性がふたり立っている。
顔立ちがそっくりなのは双子か、姉妹だからだろう。
護衛なのはひと目でわかった。
「あのう、アデル様に呼ばれて来たのですが」
と話しかけると、彼女たちはうなずく。
「ユーグ殿ですね。話は聞いています、どうぞ中へ」
そしてドアが開けられる。
案内された部屋はピンクを基調とした可愛らしい内装で、机と椅子、それに多くの本棚が印象的だ。
寝室はおそらく右手側の室内ドアの向こうだろう。
年頃の貴族令嬢の寝室に男が入るのは大変よくないので、このような構造になっていることにむしろ安心する。
「来たわね」
アデル様は大きな窓を背にして椅子に座ったまま微笑む。
彼女の右にはノエミさんがひかえている。
「ノエミ、任せるわ」
とアデル様が言うがこれは想定通りだ。
貴人が自分で説明することはあまりない。
「ええ。ユーグ殿は原則として日中の護衛をお願いしようと思います。やはり男性ですからね」
同性なら寝室や浴室でも護衛するんだろうけど、異性だから外されるのが当たり前だ。
「それと軍官殿からの指示で、時々他の武官と一緒にモンスターの間引きなどをおこなうように、とのことです。モンスターと戦う経験を積む目的でしょう」
「わかりました」
前世での記憶がどこまで活かせるかわからないもんな。
できれば経験を積んでおきたい。
「ほんとはわたしの手元に置いておきたいのに」
アデル様は頬杖をつきながら不満と一緒にため息をこぼす。
「ユーグ殿ほどの逸材、アデル様といえど独占は無理ですよ。アガット侯爵家全体のために活躍していただかなければ」
とノエミが言う。
うれしい評価だし、アデル様だって本当はわかっているのだろう。
不満そうな顔をやめなかったものの、それ以上は言わなかった。
「あと、慣れてきたら夜番もお願いすることになるかと思います」
ノエミさんが話を戻す。
「夜番って、どこにいればいいんですか?」
男同士ならベッドの横に待機するとか、ドアの前で問題ないだろう。
だが、令嬢相手に俺が同じことはできない。
「この部屋で他の者と待機していただくことになるでしょう。もちろん、寝室には他の者が詰めていますよ」
ノエミさんの説明に納得する。
寝室が直接襲われた場合、この部屋からだと駆けつけるのが数秒遅れてしまう。
敵によってはその数秒差が決定的な差になるリスクがあるし、その数秒を稼げる護衛が配置されると考えれば理解できる。
「何か質問はありますか?」
とノエミが問いかけた。
「モンスターとの戦い、どれくらいの頻度で参加する予定になるのでしょうか?」
聞いておきたいのはこの点だった。
「おそらく週に一度か二度くらいでしょう。あくまでもあなたの本分はアデル様の護衛です」
とノエミさんは答える。
「わかりました」
他の仕事は俺に経験を積ませるのが狙いってことか。
理解できたと思ったので大きくうなずく。
「じゃあさっそく、何かしてもらおうかしら。面白い話をしてよ」
とアデル様がにんまりと、貴族令嬢らしからぬ笑みを浮かべる。
「アデル様、習い事のお時間です」
「そんなぁ!?」
淡々とノエミさんが言うと、アデル様は一転して情けない表情になった。
どうやら力関係的にはノエミさんのほうが強いらしい。
ご令嬢とメイドと言っても、ノエミさんだっていいところのご令嬢だろうしな。
どちらかと言えば姉妹のようにも見える。
「ユーグ殿、習い事の間もアデル様の護衛をよろしくお願いしますね」
アデル様の反応を無視し、ノエミさんは俺に頼んできた。
「あ、はい」
「ちょっと、ユーグはわたしの護衛でしょう? わたしの味方をしてよ!」
反射的にうなずいた俺に対して、アデル様が心外そうに抗議してくる。
「僕は護衛にすぎない身ですから」
アデル様が習い事をするかどうかなんて、口を挟んじゃいけない。
「薄情者ぉ……」
恨めしそうな声を残し、彼女はノエミさんに連れられて部屋を出ていく。
護衛だからついていかなきゃか。
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