第7話「アガット侯爵家へ訪問」
俺は父さんとふたりでアガット侯爵家にやってきた。
馬か馬車かを使うのかと思いきや、移動用のマジックアイテムの使用だった。
「侯爵家に登録された魔力紋の持ち主しか使えないんだ。そしてそれでも入口から離れたところにしか転送されない」
と驚く俺に説明してくれてなるほど、と納得する。
たしかに目の前はひらけた場所だし、すこし離れた位置に立派な門がまえの屋敷があって、見張りの兵士たちもいた。
悪用された時のことを想定して、発見しやすい場所にしか飛べないようになっているわけか。
「侯爵様に呼ばれてきたガーグ・ド・デュノだ。こっちは次男のユーグだ。侯爵様に取り次ぎを願おう」
と父さんは見張りの兵士たちに話しかける。
相手は侯爵様の私兵なので、父さんのほうが身分も立場も上なのだ。
「話はうかがっております。デュノ殿、ようこそ」
兵士たちもていねいな言葉づかいと態度で俺たちを通してくれる。
門を開けてもらって中に入るが、庭だけでうちの家と庭の三倍くらいはありそうだ。
「教えたと思うが、侯爵様は子爵まで独自に与えて郎党として取り立てることができる。意味はわかるか?」
歩きながら父さんは小声で話しかけてくる。
「侯爵様が取り立てた子爵様と、父さんだとどっちがえらいの?」
何かややこしそうだなと思って聞いた。
「貴族社会の序列では父さんが上になるんだが、現実としては父さんが下として扱われるだろうな」
中央の宮廷では国王陛下の臣である父さんは、侯爵様の郎党よりも序列が上。
ただ、貧乏騎士が中央に呼ばれることなんてまずないので、そんな扱いを受ける日はほとんどありえないという。
まあ爵位が下なのに序列では上とか言われても混乱するだけだし……父さんには申し訳ないけど。
侯爵様の屋敷は比べるのがバカバカしいくらい広く、玄関のドアを開けると若くて可愛らしいメイドがおじぎをして俺たちを出迎えてくれる。
「ご案内いたします」
気品を感じる言葉づかいと上品な仕草から、いいところのお嬢さんではと推測した。
侯爵クラスの家だと伯爵令嬢や子爵令嬢が行儀見習いとして働いていたり、ご令嬢のお相手として仕えていることが多い。
単なる従者だと思っていたら実際の階級は自分よりはるかに上だとあとで知って、顔面蒼白になってた奴が前世だといたんだよなあ。
俺たちが案内されたのは一階の一区画で、広々とした部屋には十人ほどの成人男性たちがすでにいる。
「遅くなって申し訳ございません」
父さんが礼儀正しく謝ったところをみると、上の人がすでにいるのか。
「何、予定通りだ。さすがド・デュノだな」
と四十歳くらいの金髪男性が言う。
上等な赤い服を着ていることと中央にいることから、おそらくこの人が。
「恐れ入ります、アガット侯」
父さんの返答で、予想が当たったことを知る。
「本日は愚息を連れてまいりました。お引き立ていただければ幸いです」
と言ってちらりと視線をこっちに向けたで、一歩前に出て右手を左胸にあてながら頭を下げる。
「ご尊顔を拝謁する栄誉を賜り恐縮です。デュノの第二子、ユーグにございます」
あいさつをする時に気をつけないといけないのは、「恐悦至極」という言葉は王族にのみ適用されることだ。
「ふむ、なかなかしっかりしていそうだ。ド・デュノが言うには将来がとても有望だそうだな。あとで力を見せてくれ」
アガット侯爵はおだやかな表情で、社交辞令っぽいことを言う。
もちろん俺に拒否権なんてあるはずがない。
「はい。未熟な身ではございますが、精いっぱい努めます」
と礼節をもって返答して、父さんよりもすこし後ろに下がる。
あとでってことは父さんが呼ばれた理由が先なんだろうな。
「うむ。ユーグは別室で待機しているように。あとで人をやる」
話を聞いてもいいのかと思っていたら、すこしもそんなことはなかった。
アガット侯爵の言葉にもう一度礼をして、部屋を出る。
「こちらへどうぞ」
外で待機していた先ほどのメイドが、そう言って歩き出すのであとに続く。
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