第4話「再燃した気持ち」

「じゃあ続きはひとりで頑張ってくれ。俺は仕事に戻る」


 父さんは手を振って立ち去る。


 本来は仕事だっただろうに、俺の様子を見るためにわざわざ抜けて来てくれたんだろう。


 貧乏貴族と言っても俺がまだ仕事を手伝わなくてよく、学校に行けるくらいには余裕があるみたいだ。


 マーグ兄がすでに働いているし、母さんも内職しているっていうのは大きいだろうな。


 ……前世に比べたらずっと恵まれている。

 三人に感謝しながら魔法の練習をはじめよう。


 実のところ、疑問に思っていたことはまだある。

 人間の限界が100だけど、今の俺の限界は200。


 これはドラゴンと鬼、エルフのひと握りだけが持っている数字だと聞いた覚えがあった。


 つまり、俺だって【龍神】や【鬼神】に匹敵するくらい、強くなれることだってできるんじゃないか?


 魔法使いでしんどいのはレベル上げで、レベル1から30くらいまでが特にきつかった記憶がある。


 凡人だった俺はレベル30になった時は50歳くらいだったんだよな。

 一流と呼ばれる連中は10代のうちに到達していたのだ。

  

 圧倒的な才能の差ってやつが実在することを、その時に思い知らされた。

 だけど、レベル200までいけば埋まるのかなぁ、と思う。


 俺だって彼らのように活躍してみたい。

 たくさんの人の役に立ちたいし、褒められたいし、認められたい。


 希望があるとわかれば、あきらめていた願望が再燃する。

 レベル上げはおそらくすごく大変だろうけど、まずはやれるだけやってみよう。


 とりあえずレベル100まで上げれば、人類最強クラスの背中が見えてくるはずだ。


 そうなるとモンスターと早めに戦えるようになっておきたいな。

 訓練でもレベル上げはできるけど、効率がかなり違ってくるんだから。


 てことは、父さんが言うように『魔法剣士』ができるように、前衛の練習もしておいて損はないな。


 『魔法使い』が認められるまで時間はかかるだろうし、その間機会を損失するのはあまりよくない。


「つまり魔法の練習をしつつ、剣士の鍛錬をやりつつ、実戦でもやれるアピールをするべきか」

 

 父さんに頼んだら実戦に連れて行ってもらえないだろうか。

 ……何となくだけど、そのためには強さを認められなきゃいけない気はする。

 

 十年そこそこあの人の息子をやってきたうえでの勘だ。


 攻用魔法を使えば勝てないまでにせよ、けっこういい線いけそうに思うんだけど、どうなんだろうか。


 まずは父さんがどれくらい強いのか、たしかめてみたほうがいいかな。

 そうすればあとどれだけ頑張ればいいのかわかりやすいもんな。


 できればわかりやすくて具体的な目標があったほうが、やる気が出るというものだ。


「《火の矢》、《雷の矢》」


 やりたいこと、やっていくことが自分の中で整理できたので、魔法の練習を再開する。


 こうやって同じ魔法をくり返し使うことで、発現速度と出力を練り上げていくのだ。


 もともと魔力量が大きい人なら、練習で練り上げなくてもバカげた出力になる。

 でも、出力は地道な反復練習で上げることができるのだ。


 才能がない者は練度と工夫で補って戦え──それが前世の恩師の教えだった。

 その教えはまだ覚えているし、信じている。


 凡人で覚えがよくなかった俺を笑わず、見捨てず、根気よく教えてくれた人の言葉だから。


「《浮遊》、《風の息吹》」


 俺は移動用魔法と付与魔法を同時に発動させた。

 付与魔法と一緒に使うことで、移動用魔法はより大きな効果になるものがある。


 練度と工夫を意識していなければ、きっと気づかなかっただろう。

 ここは実家の敷地でそんなに広いわけじゃない。


 三つ以上の魔法を一緒に発動させるのはやめておこう。

 魔法を一度解除して、さらに魔法をとなえる。


 こうすることで自分の体に適度な負荷をかけ、魔法の許容量と回復量アップにつながるのだ。

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