第3話「父との訓練」
「何で『魔法剣士』なの?」
と俺は父さんに聞いてみる。
「そりゃ俺が『魔法剣士』だからっていうのが一番の理由だけどな」
父さんは答えて笑う。
「だが、付与魔法が強いほど、有利な状況は増える。ユーグなら一流の『魔法剣士』になれるんじゃないかなって期待してしまうな」
『魔法剣士』なら前世でもいたけど、そこまで強いイメージがないんだよな。
そりゃ俺なんかより強い人はけっこう多かったけど、一流の『魔法使い』なら瞬殺できて当然ってくらいの存在だった。
今の時代じゃ立場が逆転してしまったと考えたほうがいいのかな?
まあ短縮詠唱ができなくなったんなら、わからなくもないけど。
「父さん、俺は教えてもらった覚えはないんだけど、付与魔法は短縮詠唱はできてるの?」
と質問する。
「ああ。だって付与魔法は剣や拳をぶつけ合いながら魔法を発動させるんだから、短縮するしかないだろう?」
父さんは何を当たり前のことを、と言いたそうな顔で答えてくれた。
「きっと『魔法使い』はその辺の緊張感がないから弱いんだよ」
とマーグ兄は優しく言って、俺の肩に手を置く。
なぐさめてくれたんだろうなということは伝わる。
「なるほど」
今の時代じゃそんなふうに解釈されているのか、という意味で納得した。
接近戦職に距離を詰められたら終わるのに、緊張感がないわけがないんだが。
おそらくこのふたりには伝わらないよなと思って飲み込む。
「緊張感は大事だぞ。強くなるためにも、勝つためにも」
父さんの言うことはもっともだと思うけど、ちょっとウォーモンガーっぽくて苦笑してしまう。
貧乏貴族が稼ぐためには傭兵なりモンスター退治が手っ取り早いし、そのためには戦闘は避けて通れないってだけだろうけど。
「せっかくだから戦闘訓練もしておこう。きっとお前の助けになる」
父さんに優しく言われてしまうと断れない。
前世の知識があるからわかるが、この人は普通の親だ。
純粋に俺を心配しているだけなんだ。
「うん。優しくしてね」
「もちろんだ。継続できなきゃ意味がいないからな。毎日継続できる程度の鍛錬にしておく」
俺の頼みに父さんは豪快な笑みと一緒に応える。
「じゃあ行くぞ!」
「う、うん」
父さんと一緒に基礎鍛錬をはじめた。
まずはダッシュ、それから剣の素振りだ。
「基礎鍛錬ってきついなぁ」
と休み時間をもらったところで俺はぼやく。
「基礎体力こそ一番大切だからな」
肩で息をしながら座り込んでいる俺とは違い、父さんは余裕があるらしい。
立ったまま汗をタオルでぬぐいながら、さわやかな笑顔で言う。
「それは何となくわかるよ」
体力が減ると魔法を使うための集中力も落ちてしまうのは、前世で体験済みだった。
体力こそ基礎って脳筋思考みたいだけど、実戦を知ったあとだと全然バカにできないんだよね。
だからこそ面倒だと思いながら、基礎鍛錬をしているんだけど。
「ぼやきながらも続けるあたり、ユーグは立派だな」
と父さんは不意に笑みを消して言った。
「そりゃ必殺の魔法や剣でバーンと敵を瞬殺できたらいいけど、そんなの無理だろうしねえ」
できる超人になら心当たりはあるけど……思わず遠い目をしそうになる。
「ははは、現実ってものがちゃんとわかってるじゃないか」
父さんは笑うがバカにした感じはなく、むしろ喜んでいるようだ。
「夢や理想を追いかけることが悪いとは言わんが、それだけじゃあな。人間にはできることとできないことがあるし、どんな時だって腹は減る」
まじめな顔で言うのは人生の先輩としての助言だろう。
その好意はありがたく受け取っておこうとうなずいた。
どんな時でも腹は減るっていうのは、前世で身に染みているしね。
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