第2話「ユーグが使える魔法」

 ご飯を食べてひと休みしたら、俺は魔法の練習を開始する。

 《鑑定》はすでに試したから残りは九だな。


「《火の矢》」


 まずは上にめがけて一発放つ。

 見覚えのある火の攻用魔法だ。


「《雷の矢》」


 次に風属性の攻用魔法を撃つ。

 魔法を使えない人はよく勘違いするが、雷の魔法は風属性に分類される。


 何でなのかは誰もわからないらしく、魔法にまつわる謎の一つとされていた。


「《浮遊》」


 次には移動用魔法で地面から十センチほど浮かんでみる。


 問題なく使えるようだし、レベルが50のおかげか、数回魔法を使っても全然疲れない。


 50回くらいは使える魔力も、そのまま引き継げたようだ。


「何だ、ユーグ? 魔法の鍛錬か?」


 そこへ父さんがやってきて声をかける。


「うん。魔法で勝敗が別れるなら、磨いておいて損はないよね」


 と父さんが言ったことを引用して答えると苦笑された。


「その通りだが、接近戦用の魔法の練習も忘れるなよ。《風のささやき》は教えただろう?」


 そして確認するように言われる。


「うん、そうだね」


 たしかに教わったが、問題が一つあった。


 俺が前世で使えていた《風の息吹》という付与魔法があるのだが、これの下位互換が《風のささやき》なのだ。


 どうするか……迷ったけど、隠し続けるのはおそらくとても難しい。

 それならいっそ使えるようになったことにして、見せてしまおう。


「ところで父さん、相談があるんだけど」


「何だ、突然?」


 いきなりすぎて訳がわからないという顔をされたのをよそに、俺は《風の息吹》を発動させてみた。


「《風の息吹》」


 風が発生して俺の体を包み込む。


 今の俺は身体能力が上昇しているし、風の守りで物理攻撃に対する抵抗力を得た状態だ。


「おおおおお!?」

 

 父さんは青い目を大きく見開いて、叫び声をあげる。


「そ、それは上位魔法の《風の息吹》じゃないか!?」


 ……上位魔法? 《風の息吹》が?

 どういうことだ? 《風の息吹》は俺でも使える中級魔法のはずだけど?


「い、いったいいつの間に!? どうやって覚えたんだ!?」


 父さんは興奮して早口でまくしたて、俺の肩をしっかりつかんで揺さぶる。


「えっ……」


 頭まで揺さぶられてるので、とても話せる状態じゃない。

 今のうちに何とか説明を考えたいが、頭が上手く動かなかった。


「父さん、何をしているんだい? ユーグがかわいそうだよ」


 マーグ兄が俺たちを見て話しかけてくる。

 正直助かったけど、困難も割り増しされた気分もあった。


「あ、いや」


 父さんは我に返ったらしく、俺から手を離してこほんと咳払いをする。


「あまりにも驚いてな。ユーグはいつの間にか《風の息吹》を使えるようになっていたんだ」


 と父さんが言うと、マーグ兄がぎょっとして俺を見た。


「何だって? すごいじゃないか!」


「あ、ありがとう」


 俺は混乱から立ち直っていたが、説明はあきらめようと決める。

 

 何のアイデアも思いつかなかったからだ。


「どうやって覚えたのか、教えてもらってもいいかい?」


 とマーグ兄にも聞かれる。


「練習していたらいつの間にか、使えるようになっていた」


 あまりにも苦しい言い訳だと自分でも思う。


「ええー!?」


「バカな、そんなことが起こりうるのか!?」


 やはりと言うか、ふたりとも半信半疑か、疑いが八割という感じだった。

 俺だってふたりの立場だったら素直に信じなかっただろうな。


「いやでも、実際にできたんだろう? ユーグはもしかしたらすごい才能があるのかもしれないね」


 先に落ち着いたのはマーグ兄のほうで、そう褒めてくれる。

 何というか、俺にとって都合のいい結論だった。


「たしかにな……《風の息吹》を覚えることができたなら、そりゃ『魔法使い』を目指したくなった気持ちはわかった」


 と父さんは腑に落ちた顔で言う。


「だが、それなら余計に『魔法剣士』を目指したほうがいいぞ」


 そして意外なことを続ける。


 《風の息吹》を短縮詠唱で発動させても驚かなかったことと言い、まだまだわからないことだらけのようだ。

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