第1話「転生後の世界で魔法使いは最弱のようです」

「教えたはずだがな。『魔法使い』は、他の才能がない者が仕方なくやっている最弱の職業(クラス)だと」


 と父さんがゆっくりと言い聞かせるように言う。


「ユーグは剣もそこそこいけるだろう? 普通に『魔法剣士』でいいじゃないか」


 マーグ兄が横から口をはさむ。


 そう、ユーグは『魔法剣士』として活躍して貴族になった父を引いているおかげか、剣士としての才能があるらしい。


 だが、個人的には思い入れのある『魔法使い』が最弱化してしまったのが、ちょっと納得いかないのだ。


 そりゃダントツ最強というわけにはいかないかもしれないけど、他の職業すべてからバカにされるのはおかしい。


「昔、『魔法使い』は弱くなかったと聞いた覚えがあるんだけど」


 俺は何で知っているのかぼかすために、あやふやな形で疑問を口にする。


「どこから聞いたんだ? 昔、『魔法使い』の地位が高かったのは、短縮詠唱という高等技術を使えた人だけだぞ? 使えなかった人はやっぱり最弱だっただろう」


 父さんは怪訝そうにしながらも教えてくれた。

 えっ? ちょっと待ってくれよ。


 短縮詠唱というのは魔法の呪文をすっとばして、魔法名だけで発動させるテクニックなんだが、これは『魔法使い』なら必須レベルのものだ。


 断じてかぎられたエリートしか使えない高等技術なんかじゃない。

 だって、そうじゃないと呪文を唱えてる間に剣士に斬られて死ぬじゃないか。


 最弱職とかいう前に職業が成立しない可能性があるレベルだと思う。


 いつの間にか失伝してしまったのか。

 今はいったい何年なんだ?


 貧乏騎士の家だと読み書き計算に強くなる訓練は学べるけど、時事や地理はまったく触れられない。


 これ、もしかして学校にでも行くなりして、調べたほうがいいんじゃないか?


「いきなり考え込んでどうした? やっぱり父さんの言うことを聞く気になったのか?」


 と父さんに聞かれる。

 悪い人じゃないんだけど、ポジティブな考えをしがちなところがあるよな。


 まあそういう人なら、俺次第で説得するの可能か。


「父さん、俺学校に行きたい」


 と頼んでみる。


「おお、もちろん行っていいぞ! 学校はいいところだ。いろいろと学べるし、友人も作れる」


 たちまち父さんは上機嫌になったが、俺の希望とこの人が思ってることは絶対違うだろうなあ。


 だましたりするのはさすがに後ろめたいので、正面から頼んでみよう。


「ダメだったらあきらめるから、まず『魔法使い』でどこまでやれるのか試させてほしい」


「ダメだな」


 一瞬で却下されてしまった。


「なぜそんなに『魔法使い』にこだわる? まさかと思うが、体力作りがいやだというわけじゃないだろう?」


「昨日までは普通にやっていたしね」


 不思議そうな父さんにマーグ兄が同調する。

 しまったな、いきなり『魔法使い』志望になったら、怪しまれるのは当然か。


 高速詠唱はおそらく使えるはずだけど、一応試してみよう。


「剣の稽古もちゃんとやるよ。だから魔法の練習も認めてほしいんだ」


 その前に父さんの許可が欲しい。

 貧乏騎士の次男なんて、両親の理解があるかどうかでかなり違うからな。


 困惑して腕を組んだ父さんに、母さんが話しかける。


「ひとまずやらせてみたらどうなの? 魔法を磨くこと自体は、何も悪くはないでしょう?」


「そりゃ剣の腕が同程度なら、使える魔法の差が勝負の別れ目になるからな。練習して損することはないが」


 父さんはそう言ってため息をついた。


「『魔法剣士』を目指す過程として、魔法にも力を入れるというなら認めよう」


「やった。うんうん、頑張るよ」


 許可を出て安心したのでそう答える。


 『魔法使い』だと将来が心配だから父さんはこんな反応をしてるので、安心だと思えば反対しなくなるだろう。


 とりあえず目で母さんに礼を言っておいた。

 とても慈愛に満ちた微笑が返ってくる。


 大成したら親孝行しなきゃなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る