第5話「レベルの違い」
父さんに頼んでみたらあっさり模擬戦を承知された結果、夕飯前に家からすこし離れた庭で俺たちは向かい合うことになった。
早くても明日の朝になると思ってたんだけどな。
「まだ日は沈んでないからな。自分の力を知るのは早いほうがいいだろう?」
夕日を浴びながら笑う父さんは何かカッコイイ。
「そうだね」
俺が同意したところで、近くにひかえていたマーグ兄が右手をあげる。
「それじゃ三本勝負の一本め。はじめ!」
マーグ兄が宣言すると同時に父さんは魔法を発動させた。
「《火のささやき》」
火属性の付与魔法か。
火属性は風属性に対して有利だからだろう。
付与魔法同士であったとしても、接近戦で触れ合うなら属性の相性は影響する。
俺が風属性の付与魔法を使うと知っていれば当然の選択肢だ。
魔法の出力によほどの差がないかぎり、相性がいい属性が勝つ。
出力は単に練られた魔力だけじゃなく、魔法のランクでも違ってくる。
父さんはおそらく俺の《風の息吹》は覚えたてで、相性で差を埋められると判断したんだろう。
「いくぞ」
とわざわざ宣言したのは、これが模擬戦で相手が俺だからだろうな。
とりあえず油断してる父さんに勝ったとしても、何の意味もない。
真剣にやってもらってこそ、今の俺の実力を測ることができる。
てなわけで、油断を消してもらうための魔法を使う。
「《水の息吹》」
「……はぁ?」
「えっ?」
水属性の付与魔法。
全身をうっすらと青く光るオーラに身を包むと、父さんとマーグ兄は間抜けな顔になる。
「水属性の付与魔法だと?」
「水属性は火属性に強い、だったよね」
ショックから立ち直れていない父さんに話しかけて、それから地面を蹴って距離を詰める。
父さんが反応できていないので、左腕を狙ってパンチを放つ。
「うおお!」
父さんは驚き半分、苦悶半分といった声をあげて後退する。
三十センチほど下がったところで止まった。
「と、父さんの体が後ろにずれた? し、信じられないパワーだ」
気のせいかマーグ兄の声がちょっと震えている。
我ながらこの結果はちょっと異常じゃないだろうか。
《水の息吹》は耐久寄りの性能だ。
身体能力強化効果もあるんだけど、傷を自動的に癒してくれる効果こそメインだと言える。
十二歳の身体能力で鍛えているうえに付与魔法も使っていた、三十代の戦士タイプの男性相手にこの結果になるか、普通?
そう考えて、ふと思いついたことがあった。
父さんのレベルっていったいいくつなんだ?
何となく父さんはレベル50を超えていると思っていて、たしかめようとは思っていなかったんだよな。
「《鑑定》」
父さんたちがまだ冷静さを取り戻してない隙に、こっそり調べてみる。
レベル20だって……?
そりゃ俺の一撃でもこんな結果になるよ。
俺がそんなに鍛えてない十二歳の子どもじゃなくて、鍛えた大人だったら父さんに大ケガを負わせていたかもしれない。
「驚いたな。まさかユーグがここまで強くなっていたなんて」
父さんは立ち上がりながら顔をしかめる。
痛むなら治療をしたいところだけど、治癒系の魔法は使えないんだよな。
《水の息吹》はあくまでも自分に付与するものだから。
「これだけ強いなら二本めはいらないな」
と言って父さんがマーグ兄を見ると、彼はうなずく。
「いつの間にか僕はもちろん、父さんよりも強くなっていたなんて」
マーグ兄はふしぎそうにせず、純粋に感心しているようだった。
「これなら学校行かなくてもいいんじゃないかな」
とマーグ兄が言ったので内心あわてる。
学校には行きたいからだ。
「いや、そうでもない。学校でしかできないことだってある」
父さんは首を振って否定したので、すこしホッとする。
「この強さならもしかしたら学費免除の特待生になれるかもしれない。楽しみだ」
父さんはそう言って微笑む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます