女(2)

 篠宮しのみやが通う大学では長かった夏季休業が終わり、キャンパスにたくさんの学生の姿が戻ってきている。


 大学構内では久しぶりに会った友人との再会を喜んだり、互いの近況を情報交換する学生たちの楽しげな声があちこちで聞こえ、その中に篠宮の姿もある。


 大学2年生の篠宮は夏季休業に入る前に、次の彼氏候補を見つけていた。2学年上の青龍寺しょうりゅうじだ。


 キッカケは単純に一目ぼれ。

 大学構内で見かけた男子に好みの顔がいた―― ただそれだけ。篠宮は顔のいい男子を見つけたら、とりあえずチェックするようにしている。


 「とりあえずチェック」という言葉はよく言ったもので、要するに品定めだ。篠宮はたとえイイオトコに会ったとしても狙うときは慎重にことを進める。まずは彼女が立てた「基準」をクリアしていなければならない。


 最初のステップは最低条件となる顔と体格をチェックすることから始まる。



顔:

 飛びぬけたイケメンではないけど、目鼻立ちはハッキリしている→ 合格

体:

 私より身長が高くて締まっている→ 合格



 次、服装と持ち物は?



服装:

 流行はやりをおさえていて着こなしている。しかもわりと高い品→ 合格

持ち物:

 ひけらかしていないけど、持っている物はブランド品ばかり→ 合格



(どうやらお金も持っていそうね。 最後はセックスだけど……)


 篠宮はターゲット候補の青龍寺が基準をほぼクリアした時点で、付き合っていた彼氏とはスッパリと別れた。色恋の戦闘態勢に入るためだ。


 篠宮は青龍寺のリサーチを始めたが夏季休業に入ってしまう。だがこんなことで手をこまぬく彼女ではない。休みを利用して篠宮は青龍寺の評価を続ける。


 女の情報収集力は怖い。女友達の友達をたどって篠宮は青龍寺が付き合ってきた女性たちを突きとめた。人づてに情報を得るだけでなく、その中の数名とは直接会って話をしている。


 別れた元カノたちは青龍寺のことを悪く言う者はなく、しいて欠点を上げるとすれば「手が早いかも」とのことだった。


(付き合った人数が多い……。遊び人かしら?

 経験は豊富だからセックスにも期待できるわ)


 欲しかった情報がすべて集まり、総合的に評価して青龍寺は篠宮のお眼鏡にかなう。彼女は大学の夏季休業が明けるとすぐに行動に移した。



 篠宮は強気な性格だが、ネコ科の猛獣のように用心深いところもある。


 ターゲットに定めた青龍寺は、年上でしかも恋愛経験は豊富。簡単にいきそうにないと踏んだ彼女は慎重に攻める道を選ぶ。直接アプローチを始めるのではなく、周辺から徐々に攻めていき、射程距離に入るまで爪を隠すことにした。


 利用したのは大学のサークルだ。篠宮は青龍寺と交流の深い友人は誰なのかを調べて、友人が所属しているサークルに仮入部という形で入っていく。ここでも手が込んでいて、一人だと怪しまれるので女友達を言いくるめて複数で仮入部する。


 サークルに潜り込めたら、篠宮は部員全員とコミュニケーションを取りつつ、青龍寺の友人との接触頻度を上げていき存在をアピールしていく。


 はじめのうちはサークル内だけで話していたが、そのうち大学構内でひんぱんに声をかけることを繰り返して、サークルの外へと行動範囲を広げる。


 焦らずあわてず―― 篠宮は順調に青龍寺へ近づいていく。夏季休業明けから1カ月も経ったころには、青龍寺と同じグループ内という位置まで詰めていた。


 青龍寺の友人の後輩。そういうポジションでグループに入れたら、篠宮は魅力を売りこみ始める。胸元を開けた服を着て女性らしさをアピールしたり、美脚が映えるように足を露出した服装にしたりと、オトコ心を刺激することを意識する。


 篠宮はプライドが高く、男子のほうから告白してほしいし、アプローチしてきてほしいタイプだ。直接告白はせずに青龍寺に好意があることを言葉でにおわせたり、ボディタッチしたりとモーションをかけて彼に何度か機会をつくった。しかし青龍寺の触手は伸びてこない。


 なかなか縮まらない青龍寺との距離にイラッとするが、篠宮はしんぼう強くジリジリと近づく。ついに青龍寺と親しく話せるまでの仲になった。


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