最終(4)
柚莉は立ち上がろうとしたが途中で
「い、いやだ…… イヤだああぁ!」
声を上げた瞬間に風が立ち、柚莉の体が光り出した。起こった風はどんどん強くなり、柚莉を中心に旋風となって風の壁ができる。
そのうち本堂内が細かく振動し始めて柱や梁がビリビリと音を立てだした。
「なんだ、柚莉! どうしたんだ!!」
柚莉が叫ぶと同時に風が起こったことに驚いて環が問いかけるが、柚莉はパニックに陥っていて声が届かない。
「待ってくれ! まだ探してないんだ! まだっ」
柚莉は叫びながら自分を抱きしめるようにしてうずくまる。しゃがんだ状態で腕をつかんでいる指に力を入れると、全身から出ている光が弱まっていく。
光が弱まると今度は地震のゆれが激しくなる。まるで柚莉に呼応するかのようだ。
環は苦しんでいる柚莉と今の異常な状況からハッとなる。
(もしかして『
柚莉が押さえこもうとして地震が起きてるのか?)
地面が激しくゆれるので思うように進めないが、環はなんとか旋風の前に着いた。旋風の中で苦しんでいる柚莉のもとへ行こうとしたらバチンと風にはじかれてしまった。
「くそっ、中に入れねえ! 柚莉、こっちに来い! 柚莉!!」
柚莉を呼ぶが声は届かない。焦りだした環は助ける手段を考えていると、柚莉が誰かに向かって話す声が聞こえてくる。
「いやだ! まだ探していないっ。もう少し、もう少し待ってよっ!」
(柚莉……一体誰と話しているんだ?
周りには誰もいねえ……。やっぱり『器』にからむなにかか?
柚莉の中にいるやつと話しているのか?)
柚莉の声が響くなか、地震はますます激しさを増していく。
環は見てるだけしかできない自分が腹立たしくて唇を噛む。
本堂内で音を立てて荒れる旋風の中、苦しそうな息づかいをしている柚莉の近くに小さな光の玉が現れた。薄い光はだんだんと輝きを増して大きくなっていき、すぐに
環は急に現れた強いチカラに気づいて光を見ていたが、光の玉が徐々に大きくなり神々しさをもつ狼の姿に変わったことから、直感で
狼の姿をした神使は柚莉に向けて言葉を発した。
「柚莉、やめろ! 『器』に亀裂が入っている。もうもたない。
これ以上抵抗すると、地が崩れてしまうぞ!」
「え、地面が……崩れる?
あ……
神使の言葉に
(なぜ位の高い神使が
人なんて意に介さないはずだ。
それに柚莉はあの神使を知っているのか?)
環は急に現れた神使が柚莉に語りかけたことが不可解で困惑する。異常な状況に柚莉のそばへ行きたかったが風の壁に阻まれて、なすすべもなく見ているしかなかった。
柚莉は神使を見上げて、すがるような目をしたが悔しそうに歯を食いしばる。ほんの数秒固まっていたが、きつくつかんでいた自分の腕をゆるめて肩を落とした。
うつむいたままゆっくりと立ち上がるとボソリとつぶやいた。
「柊兎…… もう一度……会いたかったなあ……」
柚莉は諦めたのか動かない。抵抗しなくなった体は内側から発光し始めて、どんどんと光がまぶしくなっていく。環は柚莉の異変に気づいて大声で呼んだ。
「おい、柚莉! 柚莉! こっちに来い! 柚莉!!」
旋風の向こう側にいる柚莉のそばへ行きたいが風にはじかれて進めない。環は必死になって柚莉を呼ぶが応えることなく立ちすくんでいる。
「柚莉くん……」
「兄貴!?」
環の後ろにはいつの間にか
「兄貴っ、柚莉のようすが変だ!」
「ああ、『代替え』が始まったんだ。土地神が目覚めて柚莉くんから出てくる」
「そ、それってオレのせいか?
オレが柊兎を消すって脅して、柚莉を怒らせたせいなのか!?」
「違うよ、環。柚莉くんの体は限界がきていたんだ……
それを延ばすために父さんは『
「え……」
「『器』が壊れている。このままだと止まらない……」
「なんだよっ。なんとかならねーのかよっ」
「環……」
他人に関心をもたない環が血相を変えて柚莉を助けようと必死になっている。清正には環が今にも泣きだしそうになってる小さな子どものように映る。
清正は初めて柚莉を見たときから体に限界がきていることに気づいており、近いうちに『代替え』が始まることも予想していた。だから環に「深入りするな」と暗に忠告した。
だが環の性格から柚莉に興味をもってしまうことも予想していて、次は柚莉がいなくなり環が悲しむ姿まで想像できてつらくなる。
そこで清正は選択した。
旋風の前で焦っている環の横に立つと、肩にポンと手を置いてニコリと笑った。
「待ってろ、環。オレがなんとかする」
そう言うと清正は旋風に向かって歩き出し、なんの障害もなく風の壁をすり抜けていった。
「え…… なんで兄貴は入れるんだ――」
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