第14話 虚無「底で見つけた灯り」

虚無(1)

 目の前の景色がものすごい速さで流れていく。


 映っているものは緑色と茶色。緑に囲まれた道なき中にいて、地面には落ち葉やむき出しの土が見えている。


 これまで人工物は見当たらず、ずっと草木の景色が続いていることから、森の中にいてかなりの高速で移動しているようだ。


 しかし…… 目の高さがおかしい。


 視線が低い位置にあって地面との距離が近く、大人のひざ小僧くらいの高さに目の位置がきているようだ。それにハイキングコースのように、歩きやすく整備された道ではなく、けものが身を隠して通るような獣道を使っている。


(私はなにをしているのだ?

 どうしてつんいになって走っているんだ?)


 目に映る景色の異様さを不思議に思いながらも、どこか他人事で状況がよくわかっていない。3D映画のように臨場感のある光景としてとらえていて、ただただ眺めている。そこへ遠くから人の声が聞こえていた。


「ダメだ、呼応しない」


「戻らないのか!?」


「わからない。とにかく早く捕らえよう」


 声は聞こえていたが、日常にある生活音と同じように流されてしまい心に届いていない。


(ずっと走り続けている……。どこへ行くのか)


 緑の中を駆けていたが急に立ち止まった。前方をなにかに阻まれたようだ。フンフンとあたりを嗅いでようすをうかがい、左側へ少し歩いてニオイを嗅ぐ。今度は引き返して数歩先でニオイを嗅ぐ。顔をしかめると、進んでいた方角を変えてからまた走り出した。


 猛スピードで草木をかき分けて走り続ける。


 どれくらい走っていたのだろうか。軽快な動きが鈍ってきたと思ったら立ち止まった。フンフンと鼻を鳴らして空中を嗅ぎ、今度は歯をむき出しにして怒りの表情を見せる。なにかに行く手を邪魔されてイラついているようだ。


 ギリギリと歯ぎしりしてキョロキョロとすばやく見回す。邪魔をしている正体を探るも、なにが阻んでいるのかわからない。方角を変えて走り出した。


 しばらく順調に走っていたが、また動きが止まった。




(なんだ? なにに阻まれているんだ?

 ここはなんだか変だ)


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