心霊スポット(3)
深夜。
薄暗い道を走る車の運転席には
「
「もちろん。昼の明るいうちに出発して
「どんな感じだった?」
「うーん……。
周りに家はないから静かで不気味だった。空気は重い感じかな?
あと弟さんに当時のことを聞いてみたら、『なにも見なかったし、とくに不思議な音もしなかった』だって。
車を降りたところから行動も再現してもらったけど、オレの見立てでは気になったところはなかった。
最後に怪異以外に気になったことはなかったかと聞いたら問題の友人が転んだことくらいらしい」
「ふうん」
心霊スポットへ向かっている車中で、青龍寺は弥勒院の話を聞きながらだいたいのアタリをつける。
数時間かけたドライブの末に現場となった廃屋へ到着すると弥勒院と青龍寺は車を降りた。弥勒院が青龍寺に懐中電灯を渡そうとするが、「オレは視えるからいい」と言ってスタスタと暗い中を歩いて廃屋へと向かっていった。
(あ~~、面倒くせえ。
たくさんある心霊スポットの中からよりによって
青龍寺は歩くスピードを少し落として廃屋と周辺を観察しながら進んでいく。その横を懐中電灯を持った弥勒院が通り過ぎて案内を始めた。
「
説明しながら前を歩く弥勒院を見て青龍寺はため息をつく。
(相変わらず
ちょろいモノは視えるくせにヤベーのには気づかねえ。
桂の親父さんは跡取りがこれだと苦労するだろうな)
青龍寺の目には弥勒院が悪霊がいる方向へズカズカと進んでいくのが視えている。
「桂、オレの後ろを歩けよ」
「……わかった……」
付き合いの長い弥勒院は青龍寺の言葉が意図することがわかり、言われたとおりに彼の後ろへ回った。
青龍寺はいちいち
青龍寺が結界を張ったまま移動することで進む先にいる悪霊たちが退いていく。二人は現場となった廃屋を目指しているが青龍寺は廃屋よりも周りが気になっている。
(ここはもともと穢れの地か。
長い間埋葬地だったみてーだけど見捨てられて供養されなくなり、土地に残された霊体が怨念となったか。
こいつらもはじめは人と同じように感情もあったんだろうが今は「怒り」「恨み」「復讐」「悔しい」の念しか残ってねえ。
形状もヒトではなく黒いモノに変わっているし意思疎通はムリだな。
まあ、こんなトコに建物なんか建てりゃ、なんか起こるのは当然だぜ)
弥勒院は青龍寺がなにかに反応しているようすを黙って見ている。
(オレには見えないけど環にはなにか視えているんだ。
そんなすごい
弥勒院は青龍寺との
一緒にいるといろんな思いが混ざって複雑な感情になってしまうが、なんだかんだで自分をフォローしてくれるから青龍寺のことを本気では憎めずにいる。
「なあ、環、ココってどんなところなの?」
「もともと穢れの場所だよ。
穢れに負の感情をもった霊体とかが吸い寄せられてる。
おまけに心霊スポットとか言って来た連中の期待も混ざってやがる。
そんなものが集まって念として固まった黒いモノがいるわ。
けっこう強いからタイミングが合えば魂を抜かれるな」
青龍寺から状況を聞いて弥勒院は父親から教わった話を思い出す。
(穢れの地は供養をしないと
祟りは訪れた者に容赦なく攻撃するから近づかないことが基本で、なにもしなければ障りはない。
あと
負の感情がエネルギーとなり人の魂を食って成長する。力をつけたらさらにエネルギーを得ようと同じ負の感情をもつ人を呼び寄せて魂を食らう連鎖を起こす。
続くことで邪悪で凶暴さが増すって言ってたな)
弥勒院は青龍寺のあとに続きながら、将来身をおくことになる常人には見えないモノと
(同情をもたない悪霊に慈悲はない。
近づけば反射的に攻撃してくる。
運よく被害に遭わなかった人がどれほどいたのか……)
心霊スポットに訪れてそのときは運よく障りとならなかった人は大勢いる。だが悪霊に捕まってしまったらと考えると弥勒院はゾクリとした。急に青龍寺が足を止めたので下を向いて歩いていた弥勒院はぶつかってしまった。
「桂、ちゃんと前向いて歩けよ。
家に入るぞ」
「ごめん、ごめん」
二人が廃屋の中へ足を踏み入れると、どんよりとした空気が立ちこめ、あちらこちらに物が散乱して荒れてる景色が広がっていた。
日中に下見に訪れたときとは明らかに雰囲気が変わっている。室内は不気味さがただよっていて弥勒院はブルッと体が震える。ここに青龍寺がいてくれたことに心底感謝して室内の案内へと移る。
「環、高校生たちが通ったルート通りに建物内を案内するよ」
「いや、必要ない」
「え?」
青龍寺は荒れた室内の一点を見ている。弥勒院が彼の視線の先を見ていくとぼんやりとした白いものが目に映る。そのままジッと視るとだんだんと形状がわかってきて、白いものは人と気づいた。
「た、環、霊体がいるぞ!」
「ああ。ソイツだろ?
おかしくなったやつって」
弥勒院はスマホを取り出して、友人の上野が参考に送ってきた画像の中に写っている人物と見比べる。廃屋でぼんやりとしている霊体は、確かに写真の中の上野の弟と笑って写っている
「これって、魂が抜けている状態?」
「ああ。車の中で桂から転んだって話を聞いたときに検討はついてたんだ。
入り口近くにいたから探す手間が省けたぜ」
「そうか~。すぐに解決できて安心したよ~」
弥勒院は自分でも霊感がそれほど強くないことは自覚しているので廃屋内の部屋をすべて探し回ることにビビっていた。だから秋葉がすぐに見つかったことに
魂だけの秋葉は地面にひざまずいたまま、なにもない空間をぼんやりと見ている。霊体の彼は弥勒院や青龍寺は見えていないのか関心を示さない。
「桂、用意してもらった『
「ああ」
青龍寺が言うと弥勒院は持ってきていた5センチほどの大きさの人の形をした和紙を渡す。受け取った青龍寺は霊体となっている秋葉へ近づいていき、彼の背後へ回ると形代を背中に当てた。すると霊体は吸いこまれるように形代の中へ消えていった。
霊体の秋葉が完全に形代に入ったのを確認して、青龍寺は「ほらよ」と言って弥勒院に形代を返す。
「これで終わりなのか?」
「あとは形代に入れた霊体を肉体へ戻せば元に戻る」
それを聞くと弥勒院は緊張の糸が切れて大きく安堵のため息をついた。それから形代をていねいに扱ってカバンにしまうと二人は廃屋をあとにした。
帰りの車中で弥勒院は何事もなく解決できたことに気を良くし、青龍寺に話しかけているが彼は上の空で聞いて適当に相づちを打っている。
あまり知られていないが黒いモノに一度捕まってしまうと厄介だ。黒いモノにふれられると魂に糸がつく。糸はとても細くほのかに光っているが常人には見えない。
この糸は黒いモノと常につながっていて人を憎んだり蔑んだりして負の感情をもったときや、落ちこんで心が弱くなったりしたときに黒いモノを引き寄せる。
引き寄せられた黒いモノは負の感情を増幅させる言葉をささやいたり、弱くなった心を押しつぶすように冷たい言葉でののしって魂を攻撃する。跳ね返す精神力があれば回避できるが、人はいつも強いとは限らない。油断していると食われてしまう。
黒いモノに情けはなく
心霊スポットから数時間かけて来た道を戻り、教えてもらっていた秋葉の家へと向かう。家の近くに到着すると少し離れたところに車を止め、弥勒院と青龍寺は歩いて家の前まで行った。
門の前に到着すると弥勒院はしまっていた形代を取り出す。それから形代の背中部分を指で軽くポンポンとたたくと形代から秋葉の霊体が現れた。
秋葉の霊体はぼんやりと立っていたが自宅の前にいるのがわかったようだ。うつろな表情のまま歩き出してフラフラと玄関へ向かい、ドアの前まで来るとそのまま通り抜けていった。
「環、ちゃんと体に戻るよな?」
「動物と一緒で帰巣本能あるから大丈夫だろ」
弥勒院は青龍寺の言葉を聞いて安心したが、気になってしばらく門の外からようすを見ていた。隣に立つ青龍寺は冷ややかにしている。
(あの魂、
居心地がよかったみてーで魂にがっつりと黒いモノが乗っかってやがる。
面倒くせえからそのままにしとくけど、いずれ影響あるだろうな。
強すぎる好奇心が
青龍寺は霊体にくっついている黒いモノの存在を弥勒院に教えることなく、そのまま車へ戻っていった。
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