第9話 心霊スポット「怖いのはそこじゃない」

心霊スポット(1)

 『高校生活、最後の夏休みの思い出』と、わざわざイベントっぽく演出して、色恋を期待している学生の姿がある。


 しかし…… 全然さわやかではない。


 彼らがいる場所は、住宅地から外れた場所にたたずむ廃屋で、周囲は明かりもなく真っ暗だ。しかも熱帯夜となっていて外気は暑苦しく、まとわりつくようにねっとりとしている。


 なぜ、こんなところにいるのか―― 始まりはこうだ。


 夏休みが終わるギリギリのところで、車の免許を取った高校3年の上野うえの。そして好きなコがいるが、なかなかアプローチができない奥手な秋葉あきば。この友人同士が夏休み最後の思い出づくりを計画した。



【作戦】

『心霊スポットに行って好きなコに男らしさを見せて仲良くなろう』

 一、 廃屋に行って怖がらせる

 二、 頼りになるところを見せて惚れさせる

 三、 あわよくば……



 下心が見え見えすぎて、かわいらしいと思えるほど陳腐ちんぷな計画。青春真っ盛りの高校生というのは、好奇心旺盛で色恋事が大好物だ。


 夏休みがあと数日で終わるという日に、秋葉が提案してきた目的地は、他県にある有名な心霊スポット。必ずなにかが起こると噂されている廃屋だった。


 上野にはすでに彼女がいるので、そこまで色恋を重視していない。だが免許を取ったばかりなので運転したいし、噂の心霊スポットに興味がある。なによりも、みんなに運転できることを自慢したかった。


 上野は友人の秋葉がもちかけてきた「心霊スポットへ行かないか」計画に乗り、二人で作戦を決行して、上野と秋葉、そして上野の彼女・原宿はらじゅくと、秋葉が思いを寄せる大塚おおつかの四人で、暗い廃屋の中にいるわけだ。


大塚 「もう全部見て回ったし、気味悪いから帰ろうよ」

秋葉 「まだじっくり見てないけど……」

原宿 「暑いからもうムリ。早く車に戻ってクーラー当たろうよ」

上野 「だな。汗でベタベタだ」



 四人はカーナビを活用して夜道を数時間かけてドライブし、大きなトラブルもなく目的地の心霊スポットに到着した。廃屋なので草木が生い茂って見つけにくいと思いきや、雑草は倒されていて車が通った形跡があり探しやすかった。有名な場所なので訪れる者は多いようだ。


 廃屋が見えると近くに車を止めた。車内から見えている明かりのない真っ暗な建物は気味が悪い。安心の要となる家に人がいないだけで、不安定で心をざわつかせるものに変わる。


 「これってヤバイんじゃね!?」「出たらどうする~!?」など、車内では茶化す会話が流れたが、全員が廃屋の雰囲気にのまれそうになっていた。でもここまできたらあとには引けない。「じゃあ、行こうか」と言って用意していた懐中電灯を持ち、車から降りて不気味なたたずまいの廃屋へと進んだ。


 建物に着くと四人はこわごわと廃屋内へ入っていった。懐中電灯の明かりだけを頼りに家の中の探索を始める。


 かすかな物音が聞こえるたびに、「おわっ!」「きゃっ!」と声を上げ、暗がりに光が当たって見えたものに、「ビックリした〇〇かよ」「なあんだ〇〇じゃん」といちいち驚き、夏の暑さを忘れさせる恐怖を楽しむ。


 1階から2階へと進んで部屋を一つひとつのぞいていく。「ふ~ん、こんなつくりなんだ」「ここにいた人はこんな本を読んでいたんだ」など、男子陣は余裕がある言葉を言う。女子陣は「あまりさわらないでよ、なにかあったらどうするの」と不安の声をもらす。


 「オレ、幽霊とか見えないものは信じてないから」「ほかの人も同じことしてるはずだから大丈夫」と強がり、リードして家中を一通り見て回ったものの、当然だがなにも起こらなかった。


 すべての部屋を見終わり、四人は半分はホッとし、もう半分はガッカリした気持ちで最初の場所に戻ってきている。


 廃屋の周囲に人家はなく、もちろん外灯もない。懐中電灯を消してしまえば、たちまち闇に包まれる恐怖エリアなのだが、暑さというものは恐怖を上回るらしく、秋葉以外は、まとわりつく蒸し暑さにげんなりとしている。


 期待どおりの展開とならなかった秋葉は、もう少し廃屋を探索して大塚との仲の進展を図りたい。しかし完全に興味を失っている三人の冷たい視線が痛くて、未練はあったが、ここで終了となった。


大塚 「なにも出なかったね」

原宿 「幽霊も暑いのニガテなんじゃないの~」

上野 「やっぱ心霊スポットって、噂だけなのな」


 行きはオドオドしていても、帰りとなると余裕のある調子で言葉がポンポンと出てくる。建物を出ていく三人の後ろにいた秋葉は、期待外れに終わったイベントに気落ちして注意力が散漫になっていた。暗い室内に散乱していた物に足を取られて転んだ。


 秋葉はすばやく手をついたので、盛大に転ぶことはなかったが、手のひらをすりむいてしまった。


 転んだ秋葉に気づいて三人は「大丈夫?」と驚いて声をかける。とくに大きな怪我けがのなかった秋葉は、「ごめん、ごめん」と言って、すっくと立ち上がって三人のあとを追った。


 建物から出ると外は蒸し暑い。ねっとりとした不快なエリアから四人は急ぎ足で抜け出す。近くに止めてあった車に乗りこみ、エンジンをかけてクーラーでガンガンに冷やす。


 しばらくすると車の中は涼しくなりだして快適な空間へと変わっていく。やっとで落ち着けた四人は、車を出して廃屋を去っていった。


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