第8話 街中「日常にある落とし穴」
街中(1)
都市の中でも商業施設がひしめくエリアは若者に人気の場所となる。若者が訪れるだけでもにぎやかになるが、若者が呼び水となってさらに多くの人が集まる。そんな
大勢が来訪する街は、利用しやすいように整備されているものだ。きちんと舗装されて歩きやすい歩道のはずだが、なにかに
なにもなかったはずの場所で足を引っかけたので、若者は驚いて振り返り、足元を確認した。ところがやっぱりなにもない。若者はしばらく地面を見ていたが、首をかしげながら去っていった。
少し離れた位置から、なにもないところで蹴つまずいた若者の姿を視ていた人がいた。その人物は顔をしかめて若者がつまずいた場所を視ており、独り言をこぼす。
「地面から出てる変なモノに足を引っかけた……
あの人、視えてなくてよかったな~、気持ち悪っ」
この人物、どうやら常人には見えない変なモノが視える人、俗にいう霊感のある人のようだ。
この世は面白いもので、肉体などの物質を持って確実に知覚できる存在と、ふれられる物質がないため、常人には見えないけど存在する不思議なモノが併存している。
神霊・霊体・妖怪・精霊など、いろんな呼称をもつ常人には見えないモノたち。身近に存在しているが、彼らと我々の世界は似ている部分はあっても根本は異なる。次元が違うので深入りしてはいけない。
先ほどの変なモノを視てしまった霊感のある人物を、後方からジッと視ている不気味なモノが歩道に立っている。ソイツはさっきから道行く人をずっと観察していた。
「視えるのはコイツか。遊び相手を見つけた。久しぶりに退屈を埋めてもらおう」
つぶやいたソレは普通ではない。黒い人影となった悪霊だ。ヒトの姿すら保てなくなっているこの悪霊は、もともとは人間で生前に虐げられて自殺してしまった者だ。
霊体になってすぐのころは、自分を虐げた人や助けなかった人たちに恨みをはらすべく化けてでて、憎しみをぶつけていた。それが長い年月が経つと、憎い感情だけが強く残り、ほかは忘れてしまった。
今は憎い思いだけにとらわれていて、ただただ人に憎しみをぶつけることが楽しみとなっている。そこで
「あーあ、
冷ややかな言葉を放ったのは青龍寺
「背中に憑いたことに気づいてねえ。
悪霊はいたぶれる人間を見つけたって、うれしそうにしてるぜ。
視えるんなら用心しろっての」
歩道を行く大勢の中に溶けこんでいる環は、うんざりした目で憑かれた人を見送った。
自分が亡くなったことに気づいていないのか助けを求めている霊体。人に害をなそうと悪意をもってうろつく霊体。特定の場所になんらかの執着があって、侵入されると容赦なく攻撃してくる霊体。街にいる霊体のほとんどは、生前は肉体を持っていた人たちだ。
でも元人間だけではない。数は少なくなったが、時を経て動物が
外出すると
例えば霊体に「視える人だ」と気づかれたとしよう。霊体は必死で自分の存在をアピールし始めて、頼みごとをしてきたり、最悪は悪意をもって危害を加えたりする可能性がある。
霊体が必死になることには少しだけ同情できる。「見えない」は言い換えると認知されないから「存在しない」と同義だ。だが霊体の立場からすれば、自分は存在しているのに、無視されていることになる。「無視」は生前と同じようにつらいものだ。
そこで霊体は道行く人に声をかけて、気づいてもらえるよう努力する。でもたいていの人たちは
ごくまれに気づいてもらえたら……もうおわかりだろう。うれしくてありがたくて必死でしがみつくのだ。
(やれやれ。
環は冷めた目をしてブラブラと歩き見ている。なぜ彼が
(柚莉……。『式使い』と思っていたが『
しかも『引き寄せる』体質……。どれくらいのものか気になるぜ)
今朝、
少し時を戻して、兄弟が青龍寺家を訪れたときのようすを見てみよう。
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